ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

ウイルソン金井の創作小説の新着ブログ記事

  •   湖畔 (大河内晋介シリーズ第五弾)

     この作品は、しばらく休憩します。  この先のことを書こうと考えたのですが、夢の中に想像を絶するイメージが現れました。ですから、書けません。申し訳ありません。落ち着いたら、継続します。

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅷ 

     夕食を終え、中央の大型テーブルに集まる。それぞれが収集した情報を発表。しかし、予想外に少なかった。 「この内容では、解明ができない」  福沢が首を傾げ、困惑する。 「そうですね。これでは、現地に行っても意味が無い」  私も納得できない。咄嗟に、御堂の顔が浮かぶ。 「御堂さんの情報を待つしかないね... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅶ 

     私たちが東都大学の研究室へ行くと、全員が揃って待っていた。テーブルにはピザが用意されて、到着と同時に食べ始める。賑やかな食事会となった。兄貴分の若月を中心に、話が盛り上がる。私は福沢准教授と、その様子を眺めていた。 「ところで、大河内さん。あの件はどうでしたか?」  福沢が心配顔で聞く。私は直ぐ... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅵ 

     若月は急ぎ夏帆の所へ行き、幾度も頭を下げ手を合わせた。その様子に、私は独りほくそ笑む。  一日中仕事に追われ、あっという間に退社時間となった。帰り際に、夏帆が近寄り私を睨んだ。 「大河内主任、邪魔しないでね。今日の夕食は、楽しみにしていたんだから・・」 「あ~、ごめん。分かった・・」  一瞬癪に... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅴ 

    「えっ、なぜかしら?」 「はい、あなたにとても会いたがっています」 「まあ、そんな・・」  あの世の人とは思えぬ仕草で、顔を赤らめた。 「一度、会ってください」  御堂は俯き、しばらく考える。その様子を眺め、自分でも素敵な女性だと思った。 「会うことは・・、問題無いでしょうけど・・、心を通わせるこ... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅳ 

     料理に堪能し、互いに意見を交換する。しばらくして別れた。 《今からでも、遅くは無いだろう。よし、道祖神へ寄ってみるか》  駅前に出ると、家とは反対方向へ向かう。半時ほど歩くと、例の道祖神を見つける。 《これかな?》  後ろ側を覗くが、痕跡は見当たらない。 《おかしいな・・。この道祖神で間違いない... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅲ

     その後、一週間が過ぎた。助手たちは、資料集めや情報収集に奔走している。 「あっ、先生。ご無沙汰です」  私が帰宅の準備をしていると、福沢准教授から電話が掛かって来た。会って話がしたいと言う。 「じゃぁ、これからでも・・」  新宿で待ち合わせをする。福沢が推奨する中華飯店へ行く。食事をしながら、福... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅱ 

    「それで、どんな内容なんだね」  畠山が首を傾げ、説明に窮している。 「教授、私が聞いた噂では、夜になると湖面が光るらしいの。それも、ただ光るのではなく、湖底が割れてマグマが噴き出す明るさ」 「それなら、ガスが噴き出すだろう?」  明菜の説明に、福沢が疑問を投げかける。 「ええ、そうなのよねぇ・・... 続きをみる

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅰ 

     今年の夏は、台風、地震、大洪水、火山の噴火など、自然の変事が猛威を振るう。特に、厳しい酷暑が、日本国内の記録を更新している。  東都大学の研究室内も、エアコンがフル回転。 「教授、この暑さに耐えきれないですよ」  邪鬼対策に窓も無く、密閉状態の室内だ。二年の渡瀬が、不満を言う。 「慣れるしかない... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅨ 

     瞬く間もなく光が消え、静かな洞窟観音に戻った。私たちは、全ての観音像を拝顔し、表に出る。受付けで、ご朱印札を多めに購入し、駐車場の車へ引き上げた。 「皆さん、お疲れ様でした。事が楽に済み、無事で良かった。今日のことは、他言無用です。お願いしますね」  自販機で買った飲み物を配り、飲みながら私が挨... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅧ 

     千代と御堂が別れの挨拶をした。 「若月さん、これであなたも平穏に暮らせるでしょう」 「はい、ありがとうございます」  若月は丁寧に礼を言った。 「それで、この若者たちの記憶を消しますが、宜しいですね?」  御堂が、私と福沢に念を押す。 「その件ですが、今後の活動を継続させるために、許される範囲で... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅦ 

     守護や防人たちが洞窟観音を出ると、邪鬼たちが林の方へ逃げ始めた。駐車場の周囲が戦場となる。罵声と呻き声が錯綜。半時ほどで、邪鬼の屍が山積みになった。 「こちらへ・・」  徳明園の門まで許され、私たちは駐車場の周辺を見渡す。その光景は、目を覆うほどの荒ぶ世界であった。 「今から、あの屍を始末します... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅥ 

     二人の美しさに、助手たちが危険な現状を忘れ、見惚れてしまった。 「あらあら、しっかりしてちょうだい。危険が迫っているわ」  御堂が、たしなめる。 「そうだよ、これからが本番だ。気を引き締めていかないと・・」  若月も声を掛ける。 「それで、この後は何をすれば良いのですか?」  私が、千代に尋ねた... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅤ 

     数え切れない邪鬼の大群。権助に新たな力が備わったようだ。私は恐れ、今回の戦いで権助を完全に潰さねばと思った。  庭園の池を過ぎる。ようやく、洞窟の入り口に辿り着いた。 「大河内さん、権助は内臓に目もくれず、真っ直ぐに向かってきましたよ」 「ええ、私も見ました。彼の執念を、改めて確認しましたね」 ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅣ

     邪鬼の姿が見える私と若月が、揺れる木々の周辺を凝視する。 「やはり、隠れているな。ただ、権助の姿が無い」 「いえ、あの大木の後ろにいますよ。主任・・」 「そうか、指で示すなよ。ヤツは、こっちが気付いていないと思っているようだ」  残念なことに、渡瀬と明菜が若月の言葉を聞いて、大木の方を眺め助手た... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅢ 

     関越高速道の高崎インターを下り、市内へ向かう。環状線から、国道17号の烏川沿いを走る。聖石橋を渡り、目の前の観音山を目指した。 「さあ、直ぐ近くだ。心構えはいいかな」  福沢が、助手たちに告げた。彼らは前方に目を向け、ただ頷く。車内が緊張感に包まれる。 「そ、そんなにぃ、固くなったら~、素早く、... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅡ 

     その時、若月の携帯が鳴った。 「あ、夏帆さん。うん、家には行かないで欲しい。ちょっと待ってね」  様子を聞いていた私に代わる。 「大河内だけど、若月の話は本当だ。君に危険が及ぶ、だから絶対に近寄らないで・・」  彼女は半信半疑だが、ようやく納得してくれた。その後、若月はブツブツと話し続ける。 「... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅠ 

     私と福沢が、非常に危険な戦いとなるので、参加を止めるよう助手たちに説明した。 「いいえ、僕たちも行きます。先生のお役に立ち、僕たちの経験にもなる」  リーダーの畠山が、代表で答える。他のメンバーも頷く。 「でも、女の子は危ない。ヤツらは、弱い人間から襲う」 「あら、私が弱い人間と思っているの? ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩ 

     案の定、権助は血眼になって、私たちを探していた。御堂の行方も気にしている。御堂が雑木林で姿を消したことも、仲間から情報を得た。数匹の邪鬼を雑木林へ行かせ、状況を窺っている。  翌日の朝、私と若月は会社に連絡して、有休を得る。電話には、若月と交際を始めた女子事務員が応対。彼が言葉巧みに、彼女に伝え... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅨ 

     御堂は雑木林に逃げ込み、道祖神の穴へ入ることができた。 「さて、これからどうするか。私の家は無理だ。恐らく、ヤツらに囲まれているはずだ」 「これから、タクシーで大学へ行きましょう」  私は、福沢の提案を直感で受け入れる。大学の研究室は、邪鬼の嫌う工夫をしていたからだ。 「先生、研究室はあのままで... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅧ 

     私が若月を庇うように、ファミレスを出る。やはり、私たちを見張っていた邪鬼が、ゴソゴソと動き出した。 「相当数の邪鬼が、暗闇で動いている。若月、注意しろ!」  私が、若月に小声で耳打ちする。 「はい、主任」  私たちは雑木林の反対方向へ歩く。明るい商店街の中を、ゆっくり歩いた。その隙に、御堂が雑木... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ 

     ただ、私は気になった。高崎の洞窟観音へ行かねば、会えなかったはずの千代さんに会え、この御堂が私たちの前に現れた。 「御堂さん、千代さんにしてもあなたにしても、どこから来られたのですか?」 「ああ、そのことね。前回の雑木林にある冥府の境界線よ」 「えっ、あそこは封鎖されたはず・・」  御堂が、小声... 続きをみる

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  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅥ 

    「大河内さん、あなたは典侍に会われたでしょう? あの方がとても心配して、私をこの世に送り出したの」 「はい、昨晩話すことができました。でも、御堂さんのことは、何も触れませんでした」 「ええ、分かっています。あなたの家の近くに、邪鬼の群れが集まり、情報を手に入れようと必死だったの。だから、敢えて私の... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅤ 

     考え倦んだ末、結局駅前のコンビニする。私と若月は、周りに気を配った。特に車内の人の動きを確認し、一駅ごとに車両を変更。  約束の駅前には、福沢が先に来て待っていた。 「早かったですね・・」 「ええ、その女性に興味が湧き、急いで来てしまいました」  福沢は照れながら、早口で答える。 「主任、間違い... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ 

     昼時間に、若月が迎えに来た。一緒に食事するが、今夜の約束を話すべきか私は迷う。 「主任、箸が動かないですが、お腹が空いていないんですか?」 「ん? いや、考え事をしていたんだ」 「何をですか? 私に話せば、楽になりますよ」  若月らしいと思った。私は決心する。 「実はな、今朝のことだが・・」  ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅢ 

    「もし、差し障りが無ければ、事情を教えて?」  物腰の柔らかな女性だ。年齢がほぼ私と同じくらい。妙に私を魅するので、心がときめいた。 「あ~、う~、・・」  私は戸惑い、言葉が思いつかない。 「これから、お仕事でしょう? 後で電話を頂けますか・・」  小物入れから名刺を出し、私に寄越した。私も名刺... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ

     私は忘れないように、教えられた番号をメモする。 《しかし、驚いたなぁ。千代さんが現れるなんて・・》  朝までまどろみ、すっきりしないで起床した。熱いシャワーを浴び、眠気覚ましの強いコーヒーを飲んだ。朝食を済ませると、急ぎ駅に向かう。 「なんだろう?」  歩く私に、後ろから強い視線を感じる。振り向... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅥ 

     食後、それぞれの課題を持って別れた。別れ際に、挑発だけは受けるなと、若月に忠告をする。家に帰ってからも、心配した。シャワーを浴びてから、電話を掛ける。 「はい、若月ですが・・」 「ああ、私だけど。問題無いか?」 「特に、今のところは何もありません」  しばらくして、福沢から電話を受ける。 「やは... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅤ 

    「ええ、主任。私も、おやっと思いました」  注文した料理が来る前に、飲み物で乾杯。若月が、気持ち良さそうにビールを飲む。福沢は赤ワインを、味わいながら飲んだ。私は相変わらずコカ・コーラで済ませる。 「ところで、高崎の洞窟観音は、いかがでしたか?」  福沢が、カバンからパンフレットを取り出す。 「こ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ

    「確かにそうですね。ヤツらの姿が見えれば、襲われても逃げられる。また、反撃できますからね」  若月は、若いし気力もある。しかし、邪鬼の本当の怖さを知らない。私は不安を覚え、彼の向う見ずな行動を注意するつもりでいた。  私たちは、気付いていない素振りを続けた。ヤツは面白がっている。 「若月、ドアが閉... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅢ 

     その夜は、何も起こらず朝を迎えた。車に乗らず、電車で出勤する。 「主任、今日の夜は、どうしますか?」 「そうだな、福沢先生から報告が来るかもしれん。後で、連絡する」  午前中は、互いの仕事に集中する。昼食も別だった。 「大河内さん、電話です」  退社時間の間際に、女子事務員から呼ばれ電話に出る。... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅡ

    「オ、オ~ッ!」  慌てる若月。ハンドルをしっかり握る。 「ガガッ、ウフフ・・、ガァー、フフフ・・」  スピーカーから雑音と共に、薄ら寒い笑いが響く。顔を青ざめる若月に、私が肩を軽く叩き落ち着かせる。 「オイ、そこの、若いの~。必ず~、お前を~、食い殺すからな~」  地獄の底から、あの権助が話し掛... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅠ

     帰りが遅くなった若月。心細い態度で、帰り支度を始める。 「おい、若月よ。今晩、泊まれ・・」 「いいえ、着替えを持って来ていないので・・」  私は、しばらく考えた末、結論を出す。 「じゃ、私が行くよ。泊まる部屋は有るのか?」 「ん~、ソファなら・・」  明日の着替えを用意し、彼の車で千葉へ向かった... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅹ

     その資料は、江戸の中期に書かれたようだ。筆文字なので、結構時間を要した。 「この部分が、気になりますね」  私が、指で示す。福沢も首を傾げる。 「確かに・・」 「え、なんですか?」  若月が、覗き込む。 「洞窟でしょう。その洞窟に、仏像が安置されている場所ですかね?」 「そんな場所が、この近くに... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅸ 

     昼時間になっていたので、近くのラーメン店に餃子セットを三人分頼んだ。都合よく、福沢准教授が到着した。 「先生、昼は?」 「いや、まだ食べていません」  先に頼んだことを伝えると、福沢が満面の笑顔。若月を紹介し、お茶を用意してると出前の餃子セットが届いた。 「さあ、食べながら考えましょうか・・」 ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅷ

     彼の姿に、助ける手段を講じるべきだと思案する。 「君は、香木の匂い袋を持っているのか?」 「いいえ、もう関係ないと思い、持っていません」  私が思わずため息を吐いたので、若月は察したらしい。 「持っていた方が、良かったのですか?」 「ああ、取り敢えず用心のために、常に持ち歩くべきだ」  彼はブツ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅶ

    「でも、後で不味いと思い、直ぐに引き返したけど・・」  若月は浮かない顔をする。 「それで、どうしたんだ」 「ええ、女の子の姿は消えていた。ただ、座席がそのまま濡れていました」  妙にうさん臭い感じがする。 「何か、他に感じたことは無いか?」  彼は困惑しているようだ。 「ん~、どうなんだろう。よ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅵ

     日曜日の朝、早くに目覚め、落ち着かない。今度は、どんな問題が待ち受けているのか、それに誰と出会うのか楽しみだった。  ただ、以前の出会いは、美しい女性だった。ところが、あのラジオから聞こえたのは、子供の声である。そのことが、特に私の興味をそそった。  若月を待つ間、心をときめかせ頭をフル回転させ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅴ

     その声は、雑音に抗い必死に呼びかける。 「助けて~、私を、ザザー、ガガッ・・助けて、ザザーッ、お願い」  私は声を振り絞って、応えた。 「分かった。ただ、内容を詳しく説明してくれ」 「うん、ガガッ、ガガ~、でも、後で・・」  消えてしまった。 「若月、この車を買った販売店は、どこだ?」 「あ~、... 続きをみる

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  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅳ

    「おい、待てよ。その高架橋へ行ってみよう」 「えっ、反対方向ですよ」 「構わん、そこへ案内してくれ」  若月は、渋々従う。一旦、首都高速を降りる。迂回してから再び首都高速を走った。 「そういえば、引っ越したんだっけ・・」 「でも、近い内に、主任の家の方へ越そうと考えています」 「どうして?」 「い... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅲ

     しばらく何も起きなかった私は、がぜん興味が湧く。昼食が終わり、社に戻る。 「若月、帰りに家まで送ってくれるか?」 「いいですよ。帰りに呼んでください」  実際の状況を、私は確かめたいと思った。仕事が捗り、定刻で退社する。若月も支度して、私を待っていた。  ビルを出ると、雨は止んでいなかった。仕方... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅱ 

     私は仕事しながらも、若月のことが気になる。  昼前に、若月がやって来た。 「ちょっと、待っていろよ。直ぐ終わるから・・」 「あっ、ハイ」  一旦、仕事を切り上げ、廊下で待つ若月に声を掛けた。 「さて、昼飯に行くか? 今日は少し肌寒いから、ちゃんぽんでも食べよう・・」  傘を差し、近くの店へ行く。... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅰ 

     最近は温暖化の所為か、極暑が続く。今年は、梅雨時期が極めて少なかった。長雨は嫌だが、情感を味わう淑やかに降る小雨、身勝手ながら恋しく思う。  そんな私の想いを応えるかのように、朝から雨が降り始めた。現実に降ると、気分が優れない。特に出勤時は、足元まで濡れて仕事に差し障る。出社すると靴を脱ぎ、用意... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅨⅩ 

     紅茶を飲み、俺はショートケーキ、彼女はチーズケーキを食べた。 「それで、これからどうするの?」  千恵が不安そうに聞く。 「うん、俺は兄貴に結婚のことを伝えた。だから、弥彦のお祖母さんに会って、報告したい。どうかな?」 「ええ、もちろんよ。早く行きたい」  ただ、向こうでの生活に不安が残る。先に... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅨ 

    「金ちゃん、何言ってんの?」  言葉の心意が理解できず、千恵の瞳が定まらない。 「然したることじゃない。綺麗になったね、と言う意味だよ」 「まあ、驚いた。もっとストレートに話してよ」  頬を膨らませ拗ねる。 「その顔も、素敵だ」  千恵が自分の顔を両手で隠した。 「もう、私の顔を見せない・・」 「... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅧ 

     あの日から、二年が過ぎ去った。俺は研修期間が終了し、ブラジルの企業に面接。三ヶ月後の昨日、合格通知の手紙が届く。その場で、千恵に電話した。 「あっ、金ちゃん・・。どうしたの?」 「明日の午後に、会えるかな?」  しばらく、沈黙が続く。俺は不安になった。 「うん、いいよ。本当に、会えるんだね・・」... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅦ 

     彼女の感情は、激しく変化する。言葉を選ばなくてはと思った。ただ、恣意なことは避けたい。 「う~ん、上辺だけの女性らしさでなく。なんと言えばいいのかな。麗しい? 簡単に言えば、仕草や姿が大人の女性として、たおやかな色っぽさかな?」  千恵は、直ぐに解釈したようだ。あっ、やっぱり。あの目つきは、小悪... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅥ 

    「うん、そうしよう。じゃ、しばらくは、お別れだ」 「えっ、本当に会えないの?」  ベンチから立ち上がり、俺を見下ろす。俺は座ったまま、見上げて頷く。 「どれほど、苦しめるつもりなの? これ以上苦しめるなら、私、死んじゃうから」  仕方なく、俺は立ち上がる。そして、抱きしめた。 「千恵ちゃん、永遠に... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅤ 

    「あいや~、間違えた。性欲じゃなく、快楽だった。だから、そんな気持で、恋を始めたら大変だ」  俺は支離滅裂な状況に陥った。千恵は面白そうに聞いている。 「だから、なんなの? うっふ・・、金ちゃんを困らせるって、楽しい。ふふ・・」 「うー、参った」  あの時の、千恵の姿を思い出してしまった。頭に焼き... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅣ 

     俺は迷ったが、ストレートに喋る。 「千恵ちゃんも大人だ。だから、率直に言うね。佐藤さんの体当たりって、本当に体を投げ出すことじゃないよ」  千恵は感じたらしく、ポッと顔を赤らめた。 「君は・・、俺を信じて、自分をさらけ出した。辛い勇気だったろうね」 「・・・」  彼女はたじろぐことなく、身を縮め... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅢ 

     千恵と恋をするなら、きちんとスタート・ラインを発とう。彼女を悲しませてはいけない。俺はそう考えた。 「千恵ちゃん・・。さっきさぁ・・、約束のこと、俺は言ったよね」 「うん、でも・・。内容を言ってないよ」  恐らく、困惑するだろう。もしかしたら、嘆き、泣きわめくかも。 「しばらく、会わない。それが... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅡ 

     もう、隠す必要はないと判断し、千恵にあの人のことを話す。 「その人は、素敵な人?」 「うん、素敵な人だった」  千恵の瞳が揺らいでいる。懸命に想像しているようだ。 「私と比べたら・・」 「比べることじゃないよ。人それぞれに個性がある。素敵の意味も異なるからね」 「ふ~ん。でも、金ちゃんが素敵に思... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩⅠ 

    「まだ、学校が終わっていない。それに研修もあり、どこへ行けるか分からないんだ」  千恵は視線を外すことなく、俺の言葉を聞いている。 「だから、結婚なんて考えられない。千恵ちゃんも若いしね・・」 「9月で、19になるわ。待っていたら、おばさんになっちゃう」 「あはは・・、佐藤さんに聞かれたら、叱られ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅧⅩ 

     俺は驚き、目を見張る。 「そうなの。お祖母ちゃんから、いろんな国の話を聞かされたわ。だから、小さい頃からの夢だった」 「お祖母ちゃんが、何故?」  千恵の説明によると、祖母も外国の生活に憧れていたという。実際に、祖父と一緒にヨーロッパや北中米へ観光旅行した。 「だから、外国に住めたらいいねって、... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅨ 

    「千恵ちゃん、俺は正直に話すから、良く考えてね」  彼女の体が不安で固まる。 「そんなに、緊張する必要はないよ」  肩を軽く摩る。 「うん、分かった・・」 「人を好きになること、決して悪いことじゃない。俺はたくさんの人を好きになった。残念だけど、嫌う人もいたし、嫌われもした」  何を説明しようと、... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅧ 

     翌々日の夕食後、千恵から連絡が来た。 「金ちゃん、元気!」  すごく元気な声が、携帯から響く。 「ああ、元気だよ。もう少し、声を低く・・」  幸いに、談話室には誰もいなかった。ただ、誰かに聞こえたら、大変だ。 「分かった・・。それからね、もう仕事しているからね」 「そうか、良かった。それで、今日... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅦ 

     佐藤が意味ありげに微笑んだ。 「何が面白い? 俺にとって、深刻なことだよ」 「あ、ごめん。面白いとは、思っていないわ。ただ、・・」 「ただ、って・・、なんだよ?」  不愉快になり、つっけんどんな言い方をした。 「ただ、千恵ちゃんを軽々しく考えていないと、分かったから。安心して、つい微笑んでしまっ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅥ 

     俺の考え方は一方的なのかもしれない。この先、どんな障壁が待ち構えているか、想像もつかない。でもな、一番の問題は恋愛だろう。 「ねえ、金ちゃん。あの子の行動を、どう思ったの?」 「うん、積極的だった。本音で言えば、体で誘うことが恋愛と思っているように感じた」  これが現代風の恋愛なのであろう。いじ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅤ 

     彼女なら理解すると思い、洗いざらい話すことにした。 「佐藤さん・・、今回のこと全て話すよ。ハッキリ言って、悩んでいるんだ」 「ええ、千恵ちゃんからも告白されたわ。あなたに抱かれ、キッスもしたそうね」  やはりな、あの子らしい。 「そのことで、どう思った?」 「う~ん、いろいろ考え、妬みも感じたわ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅣ 

     それからの数日は、何故か苛立ち落ち着かない。千恵から音沙汰が無く、俺の脳は完全に支配された。残暑と千恵の思いが、俺を焼き焦がす。  ほぼ一週間後、佐藤から呼び出される。 「今晩は、まだ暑いわね。元気だった?」 「うん、まあね。ところで、今日はなんの話かな?」  昼間より幾分暑さが和らぐも、未だに... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅢ 

     弥彦の内容が分かっていれば、同じ新幹線に乗って行けたのに。どこかで、歯車が狂った。工場へ連れて行かない方法を、考えるべきだった。 「金ちゃん、いつまで寝ているんだ」  同室の佐川に起こされる。昨晩は心身共に疲れ、いつの間にか熟睡したようだ。夢の中に千恵が映し出される。だが、肝心なところで途切れた... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅡ 

     俺は理解に苦しむ。 「金ちゃんらしい、言い回しね。うふふ・・」 「家に帰ったら、突然に電話だよ。意味が分からず、駅まで迎えに入ったけど・・」  佐藤の説明によると、数日前に千恵から相談を受ける。祖母からお盆に帰るよう勧められ、帰りたくないと悩んでいた。 「千恵ちゃん・・。お祖母ちゃんのことは、と... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩⅠ 

     彼女は、鷹揚に構え、唇を差し出す。 「ムードの無いキッスなんて、なんか変だよ」 「これで、いいの。外国なら、日常茶飯事でしょう」 「あ~、それは挨拶のキッスだ。ハグと同じさ・・。ムム・・」  千恵の唇が、強引に俺の口を塞いだ。俺の脳が、簡単に受け入れる。既に挨拶のキッスではなく、恋のキッスに変わ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅦⅩ 

     俺は答えることができない。口をパクパクと動かし、肺に酸素を送り込む。過呼吸に陥りそうだ。俺は天を仰ぐ。 「金ちゃん、大丈夫なの?」  千恵が俺の顔を覗き、小さな手で頬を擦る。なんて、優しく滑らかな手の感触、俺の脳が宙を回る。 「これが・・、天国へ誘う・・、天使の手・・、なのか?」  我知らず、余... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅨ 

     電車の単純な揺れに、疲れが眠気を誘う。千恵から健やかな寝息が聞こえる。俺も疲れていたが、この二日間を思い浮かべ脳がフル回転。千恵の予想外の振る舞いに、翻弄され続けた。思わせぶりの仕草に、心をときめかせ困惑する。俺は大きな溜め息を吐いた。 「ん、どうしたの?」  俺の動作を感じた彼女が、目を覚まし... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅥⅩⅧ 

     こんな可愛い天使のような小悪魔に呆れる。どう対処すれば良いのか、俺は考え倦む。 「なによ、固まって。本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだから・・」  唇を離し、恨めしく言った。 「ああ、嬉しいさ。でもね、素直になれないよ、小悪魔ちゃん!」 「えっ、なんで小悪魔なの?」  思わぬ言葉に、千恵が驚く... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅦ 

     彷徨う俺の脳は、ハムレットの心境だ。恋か夢か、どちらを選ぶ。千恵に会うまでは、夢を現実に選んでいただろう。だが、彼女が目の前に現れ、俺の現実を夢から恋に浸食させよう試みている。 「千恵ちゃん、俺の脳が惑乱してる。困ったね」  俺の瞳を縛り付けたまま、鼻先をピンピンと弾き笑顔を見せた。 「と、言う... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅥ 

     気まずい思いで帰りの支度をする。千恵は無言のまま、事務所の椅子に座っていた。 時間を確認すると、夕刻の六時を過ぎていた。 「準備は、できたかな?」 「・・・」  相変わらず、俯いて反応しない。俺は千恵の前にしゃがみ、下から覗いた。 「いい加減に、許してくれよ。もう、あんなことは絶対にやらないから... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅤ 

     高崎に戻り、車を返した。俺はシャワーを浴びて着替える。 「千恵ちゃんもシャワーを浴びなよ。俺は事務所にいるからね」 「うん、分かった・・」  千恵は不満のようだけど、仕方なく浴びる。待つこと半時ほどで、千恵が事務所に現れた。ミニのノー・スリーブのワンピース姿だ。浅黄色の服装に、同色の清楚なネック... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅣ 

     目を閉じても、千恵の顔が瞼に残る。あの祖母の顔が、優しく微笑んだ。俺はどうすれば・・。自分の安易な行動が招いた結果である。 「うん、ちょっと考えさせてくれ」 「本当に?」 「ああ、本当だ。だけど、う~ん・・」  千恵の顔が一瞬明るさを取り戻すも、俺のあやふやな反応に再び顔を曇らす。 「ふ~ぅ。苦... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅥⅩⅢ 

     谷川の名水冷やしラーメンを注文。二人は一時休戦状態。俺はゆっくり味わった。ガラス越しに望める谷川岳の緑に囲まれ、気分が穏やかになる。先に食べ終わった俺は、何気なく千恵の食べる様子を見ていた。 「ねえ、・・・」  千恵の足が、俺の脛を小突く。 「ん? 何が言いたい?」  警戒することなく、ぼんやり... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅡ 

     千恵の手を握り、車に引き返す。車を戻すため、夕刻までに帰る必要があった。北陸道から長岡JCTで関越高速に入る。関越トンネルを越えた最初のパーキング・エリアで昼食にした。 「さあ、昼でも食べよう。早く降りて・・」  あれから、ずーっと千恵は言葉を交わさない。俺は運転しながら、千恵のことを考えていた... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅠ 

     千恵の瞳が眩しい。涙にキラリと光る。 「あぁ、・・・」  答える言葉が見つからず、俺の意識が脳内を彷徨う。 「金ちゃん、嫌なの?」  間近に迫るピンクの蕾。すーっと俺の唇に触れた。俺の意識は彷徨うのを忘れ、煩悩の誘いに頷いてしまった。  俺の左手が千恵を引き寄せ、しっかりと抱きしめてしまった。 ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩ 

     新潟弥彦の旅は、千恵のことを思い恋人らしく振る舞う。祖母の家や弥彦神社参拝は、楽しい思い出となった。 「あの子は不憫な孫なんよ、だから頼みますね」  千恵の祖母が、彼女の生い立ちを打ち明ける。幼き時期に母が病死、父が再婚すると疎まれる存在となった。母の実家に預けられ、高校卒業と同時に神奈川へ就職... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅨ 

     どうにか出発できた。早く高崎から離れることが、最善だと思う。関越高速に入ると、疎らな交通量に緊張が緩む。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「うん、なんだい?」 「まだ答えていないよ」  俺は忘れていたことを思い出す。体が強張り、ハンドルを握る手に力が入った。 「あ~ぁ、そうか。忘れていた」  前方に目を... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅧ  

     千恵が首に腕を回し、激しく体を寄せる。決壊した二人の煩悩は、危険な状態になった。俺の手が、彼女の体を弄ぶ。千恵が切ない声を出した。  その時、事務所の電話が大きく鳴った。その音に、俺の体が敏感に危険を察し、千恵の体を引き離す。 「千恵ちゃん、ごめん・・」 「あ~、なんで? こんな時に、電話が・・... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅦ 

     小さな肩が小刻みに震えた。俺は抱き締め、彼女の背中を擦る。しっとりした肌に、俺の手は惑わされた。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「ん、なんだい?」 「金ちゃんは、女性を抱いたことがあるのね?」  若く初心な肌に俺の手が停まる。 「・・・」  どう答えれば良いのか、俺の脳が窮する。 「な~ぜ~、黙って~... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅥ 

     目の前に曝け出された愛らしい体。目が奪われる清楚な下着姿だった。 「あら~、どうしたの? 丸裸と思ったの、残念でした。うふふ・・」  言葉を失った俺に、千恵は嘲笑う。  ずり落ちたバスタオルを拾い、ハンガーに掛けた。ボディー・シャンプーの香りが、俺の鼻腔を刺激する。 「うふふ・・、アハハ・・」 ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅤ 

     曇りガラスの戸が閉まる。衣擦れの音が、外で待つ俺の耳に聞こえてきた。俺は気まずさに、後ろへ振り向く。壁に寄りかかり、目を閉じ黙想する。 「金ちゃん! そこにいるの?」 「ああ、居るから心配しなくていいよ・・」  不意に、ガラス戸が開き、俺の心臓がドカンと撥ねる。見る必要の無い後ろを、顧みてしまっ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅣ 

    「そ、それ、それは困るよ。夢を求めると、俺は誓ったんだ」 「誰に誓ったの?」 「う~、誰にって、神様だよ」  意味難解な言葉に、千恵は呆れた顔で見る。 「そんな神様なんて、いないわ。本当に嘘が下手ね。ふふ・・」  俺も、自分の言い訳に呆れていた。 「うん、俺は下手くそだ」 「でしょう? 金ちゃんは... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅢ 

     俺の両腕が勝手に動いた。 「どうして・・なの?」  千恵を俺の胸から引き離し、彼女の瞳を見詰める。 「うん、君に恋する資格が、俺には無いんだ」 「嘘よ、絶対に嘘よ。佐藤さんとは付き合ったじゃない」  再び、俺の胸の中に飛び込みしがみつく。 「あれは、恋じゃない。それは佐藤さんも承知だ。気紛れの交... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅡ 

     ファミレスから五分程度だ。工場の門を開け、車を入れる。 「へ~、ここなの? 印刷会社なのね」 「さあ、降りて。事務所を開けるからね」  事務所を開け、電気を点ける。千恵は珍しそうに中を見渡す。 「金ちゃんは、どこで寝ているの?」  事務所の奥を覗く。 「ああ、その横の部屋だよ」  千恵が俺の部屋... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅠ 

     泊まるより、一緒に弥彦へ行った方がいいと思った。 「分かった、アニキに頼んで車を借りるよ」  携帯で兄貴に電話した。会社の車は、お盆中だから使用しないという。 「千恵ちゃん、弥彦まで車で送るよ」 「え~、本当に?」 「ああ、本当だよ」  千恵が喜ぶ。内心、俺も喜んでいた。 「じゃ、近くのファミレ... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅤⅩ  

    「それで、何時の新幹線に乗るの?」 「・・・」  俺の質問に答えず、黙ったままカップを見詰めている。 「どうして、黙っているんだい。時間に乗り遅れたら、困るだろう・・」 「金ちゃんは、ひとりで住んでいるの?」 「いいや、アニキの工場に泊まっているよ。明日か、明後日に寮へ帰る予定だから」 「そうか、... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩⅨ 

     我を忘れ、駅に来てしまった。改札口で待つ間、自分の愚かさに悔んだ。予定の新幹線は、既に到着しているのに千恵の姿が見えない。俺は心配した。 「金ちゃん、私はここよ・・」  後ろを振り向くと、明るい笑顔で千恵が立っていた。ただ、周りを気遣う眼差しは、不安に怯えている。 「やあ、元気だった」  若い千... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩⅧ 

     俺は非情と思いつつも、先に別れ寮に戻る。しばらくして、坂本が帰って来たが、互いに話すことはなかった。  その後、一週間ほど実家の高崎へ帰る。街中を歩くと、必ずあの人の面影が甦ってしまう。憂鬱な日々に、早く寮へ戻りたいと考えた。  朝から予定も無く呆然としていた。十時過ぎ、突然に携帯が鳴り、見知ら... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅦ 

     いや、俺は違うと信じていた。どれほど多くの女性に、心が奪われただろうか。彼女らの心が読めず、失意のどん底を味わう日々を過ごした。 「まあ、いいや。惨めな情けないことを、思い出しても仕方ない」 「ふふ・・、あら、そんなに恋をしたの。幸せね」 「えっ、俺が幸せだって?」  俺の手を握り、恨めしい眼差... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅥ 

     佐藤は、一瞬言葉を選ぶために、沈黙する。俺は焦ることなく待った。 「ん~、千恵ちゃんを悲しませないで、彼女は、まだ18歳よ」  俺には、佐藤の気持ちが分かっていた。 「もちろんさ。あの旅行のとき、彼女の仕草や言葉で感じた。でも、ときめきを意識しても、心の奥に戒めていた」 「・・・」 「だから、新... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅤ 

    「私は、簡単にどうぞって、答えたわ」  千恵に驚いたが、佐藤の答えにも唖然とする。 「えっ、そんなこと、言ったのかい?」 「ええ、千恵ちゃんは拍子抜けし、憮然としていたわ」 「・・・」  俺は言葉を失う。 「だって、金ちゃんと私の仲は、恋人未満でしょう? だから、今なら平然としていられるもの」  ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅣ 

     バス旅行から、三日目の晩。佐藤から呼び出された。  約束の時間を過ぎても現れず、俺は引き返そうと思った。そこへ、慌てて走って来る佐藤の姿。 「今晩は~、ご、ご免なさい」 「体中を蚊に刺され、痒くて我慢できないよ。もう、帰ろうかと思った」  俺の不機嫌な様子に、身を小さく縮ませ謝る。 「出掛けよう... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅢ 

     助手席に座ったまま降りずにいた。フロントガラス越しに前方の景色を見ていると、千恵がバスの前を通り過ぎる。パッと振り返り、俺を見た。鼻の先を右手の人差し指で、三回ほどチョンチョンと下から上へ弾く。新鮮で可愛い仕草だ。 「何しているの? 早く降りなさいよ」  聞こえないが、そのように口が話し掛けてい... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅡ 

     帰りのバスは、騒々しいくらい賑やかだった。運転する海田と俺だけが、静かな存在である。窓から入る爽やかな風に、俺の心は和む。  この風は、あの人を思い出させる。なにもかも、幸せに感じていた日々。それが、ある言葉のトリガー・フレーズに悩まされ、いつのまにか虜になった。 「海田さん、・・・」 「ん? ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅠ 

     その後、海田に誘われ昼食を一緒にする。食事の間、千恵のことが気にり、海田の話に集中できない。 「なんだか、食が余り進まないようだね」 「いや~、そうでもないです」  そう言いながらも、オムライスをスプーンで穿るだけ。時たま、口に運ぶ。 「もうすぐ、帰る時間だよ」 「ええ、・・・」  半分も食べ終... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩ 

     一時間ほど海岸で戯れた後、適当なレストランを探した。ちょっと小高い丘に、洒落たレストランを見つける。 「じゃあ、それぞれが適当に食べてくれ。いいね・・」  木村が伝えると、テラスのテーブルへ移動する。直ぐに食券を買いに行くグループもいれば、近くの土産店へ覗きに行くグループもいる。  俺は海岸が一... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅨ 

    「随分、簡単に諦めたね」 「反対されるのは分かっていたので、相手のご両親に直接結婚を申し込んだ」 「えっ、大胆なことをやったね。それじゃ、彼女が可哀そうと思わなかったのか?」 「う~ん。もちろん、卑怯なことだと思っています」  思い出すと、心が煮えたぎるほど辛い。最愛の人に、意味の無い過酷な仕打ち... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅧ 

     佐藤の顔が、思い浮かぶ。嫉妬に狂った目付きで、俺を睨む。 「間もなく、ヨット・ハーバーを過ぎたら、海岸に着くよ」  急きょ予定を変更したので、事前調査ができなかった。海岸は岩だらけだ。 「なんや、めちゃアカン。泳げへん、どないするねん?」  坂本が、声を尖らし不満を言う。 「坂本君の魂胆が見え見... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅦ 

     突然に渡されたので、慌て狼狽える。 「えっ、俺に?」 「うふふ・・、そうよ。だって、独りで可哀そうだから・・」 「そうか、慰めのチョコなんだ」 「いいえ、告白のチョコよ。ねぇ~、秋ちゃん」  首を傾げ、誘惑する仕草を見せる。俺の心臓が飛び跳ねた。 「ワォ、本当に、信じられない?」 「ふふ・・、ハ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅥ 

     仕方なく、俺は助手席に座った。運転する海田が笑う。 「相手のいない俺が愉快ですか?」 「あはは・・、まあ、そうだな。俺なんか、最初から予定していないよ」 「海田さんは、許婚がいるらしいじゃないですか・・」  俺は、運転する海田と話す。 「ああ、そうだよ。でも、結婚するか分からん」 「え~、どうし... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅤ 

    「抽選番号は?」  彼女は折ってある紙片を、広げた。なんと、偶然にも俺と同じだった。内心喜んだが、佐藤から釘を刺されていた。 「心変わりしたら、許さないわよ・・」  その言葉が思い出され、背筋に寒さを感じた。 「金ちゃんは?」 「いや、今は喋っちゃダメなんだ」  俺は誤魔化した。彼女は、恨めしそう... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅣ 

     バスの工具箱からスパナを出し、ひもで結びつける。 「どうだ、これで十分にギアを動かせる」  仕方なく、寮へ戻ることにした。当直の先生に頼み、実習室を開けてもらう。 「溶接は誰が一番上手いんだ?」  海田が聞く。坂本が手を上げた。 「まかしといて、めちゃ上手く仕上げるさかい・・」  確かに、坂本の... 続きをみる