ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

   恵沢の絆   ⅩⅡ 

 そこにいたのは姉の子、十三歳の順子と十一歳の龍男であった。姉が私を抱きしめたように、私がふたりを抱きしめる。 「姉ちゃん・・。幼いふたりを残し、辛かっただろうね」  ふたりの温もりは姉の温もりであり、無念な姉の気持ちが私に伝わった。おそらく、父も姉の死後四ヵ月は、幼い孫ふたりに慈悲の心で見守っていたのであろう。  ただ、父の気力は体の衰えに屈してしまった。あの『坊ちゃん父ちゃん』と言われた父の…

   恵沢の絆   ⅩⅠ 

「オヤジさんには、早く伝えるように言ったけど・・。お前の気持ちを考えると、知らせる勇気が無かったようだ」 「どうして?」 「病院の説明では、心不全と言われた。亡くなる二日前、お見舞いに行ったが元気な様子だった」 「そうか・・、本当に残念だ。それにしても、オヤジさんは辛かっただろうね」  私は気丈に答えるが、心の感情は滅茶苦茶に暴れ回っている。 「ああ、元気がないよ。心配だ」  受話器を置く。無表…

   恵沢の絆   Ⅹ

 数年後、日系三世の女性と結婚し、三人の子の父親になる。  残念なことに、私が望んだスカウトの開拓農場は既に閉鎖されていた。先輩たちは、其々に活躍できる日系社会の職場で働いている。私は、数人の先輩と日系子弟のボーイ・スカウト隊を結成。私が初代の隊長となった。  大自然を活用するブラジルのキャンプは、特に厳しい規制はない。日本ではとても考えられない環境であった。もちろん、危険が伴う毒蜘蛛(タランチ…

   恵沢の絆   Ⅸ 

 その日、貸し切りバスに乗り、およそ三時間ほどで細江先生の別荘に到着。別荘は農園に囲まれ、都会の喧騒は聞こえない。清楚な建物が見えると、私の心音は高鳴った。バスから降りる足元が覚束ない。  簡素なベランダに、人影が現れた。子供たちは左手の奥にある広場へ向かう。細江先生が、私の姿を探し当てた。両手を大きく広げ、私が近づくのを待っている。私は、先生を目がけて走った。 「良く来られた。待っていたよ」 …

   恵沢の絆   Ⅷ 

「僕は、この印刷会社を始めて、良かったと思っているんだ。オヤジさんが一番満足している。自分の仕事のように、生き生きとしているだろう」 「じゃあ、兄ちゃんの生きがいは・・?」 「もちろん、ボーイ・スカウトだろうなぁ。この十五年、色々なことを学び教えられた。それに、会社を始めるきっかけにもなったからね」 「あとは、お嫁さんを探すことだけ・・」 「アッハハ・・、そうだな・・」  私は、素直に謝った。 …

   恵沢の絆   Ⅶ 

 受付の青年が丁寧に道筋を教えてくれた。初めての東京であったが、お陰で迷うことなく、目黒の孤児院を訪ねることができた。真っ黒に日焼けした横山先生は、本部の紹介状に快く応対してくれた。先生は、ボーイ・スカウトの話題では、私が驚くほど熱く語る。それ故に、私の気持ちに理解を示し、細江先生宛の紹介状を書いて寄越した。 「手紙には、君の気持ちを素直に書きなさい。君が望む道を、正しく導いてくれると思う。幸運…

   恵沢の絆   Ⅵ 

 翌年の春。兄から渡された月刊誌スカウトの記事に、私の心がすっかり奪われてしまった。 「兄ちゃん! この記事を、読んだ? 俺も応募したいと思うけど、ダメかな?」  兄は、もう一度読み返す。 「ああ、面白そうだね。だけど、お前は中学生だから、応募する資格がないよ」 「そうか、無理か・・」  私はがっかりした。だが、記事の内容が頭から離れない。私の思いは日毎に膨らんでゆく。  悶々と過ごす私は、中学…

   恵沢の絆   Ⅴ 

   翌日の午前、病院側が手配した小型バスで、市斎場へ向かった。バスの中の家族四人。車窓から見える景色は、それぞれの思いが重なる。私に見えるのは景色でなく、血に染まった枕に眠る母の顔であった。  私はゆっくり車内を見まわす。姉は俯き、白いハンカチで嗚咽を堪えている。父は、憮然とした様子で目を閉じ、大きく深呼吸を繰り返す。前に座る兄は、流れゆく景色に目を置いているだけであった。  市斎場へ到着。私…

   恵沢の絆   Ⅳ

「母ちゃんは、もう・・、自分のことを承知しているんだよ。だから、早く行こう。俺からも、頼む・・」  助手席で黙って前を見ていた父が、重い口を開き兄に告げた。  幸せな家族の温もりが、一瞬にして重い空気へと変わってしまった。私が経験した不思議な空間は、最初で最後の貴重な家族の思い出となったのである。  抑揚のない静かな墓参りを済ませ、急ぎ帰宅した。笑顔を失った母は、兄と姉に付き添われ病院へ戻った。…

   恵沢の絆   Ⅲ 

 東京オリンピックの年。カラー・テレビが話題となり、我が家もソニーの最新型に買い替えた。母はカラー番組を楽しみに、頻繁に外泊許可を得ては帰って来る。  残暑が厳しい彼岸の一週間前。外泊した母が真剣な眼差しで、兄に心情を訴える。 「佐一郎や! 今度のお彼岸に・・、お墓参りへ連れてっておくれ。お願いだよ・・」 「具合が良くないのに、無理して行くことはないだろう・・」  扇風機の風を受けていた父が、無…