微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅷ
彼の姿に、助ける手段を講じるべきだと思案する。
「君は、香木の匂い袋を持っているのか?」
「いいえ、もう関係ないと思い、持っていません」
私が思わずため息を吐いたので、若月は察したらしい。
「持っていた方が、良かったのですか?」
「ああ、取り敢えず用心のために、常に持ち歩くべきだ」
彼はブツブツと呟く。
「どうした、一つも持っていないのか?」
「ええ、会社の女の子に見せたら、みんなが欲しがり、配ってしまった」
若月は落ち着きを失い、哀れな様子。
「仕方がない。余分に持っているから、オレのを分けてやるよ」
瞬時に、元の若月に戻る。
「ほ、本当ですか? あ~、助かった」
「おいおい、喜ぶのは早い。それだけでは不十分だ」
「えっ、不十分?」
彼は、邪鬼の恐ろしさを忘れてしまったようだ。
「もう、忘れたのか? 奴らは、どんな手段でも使う。前回だって、この袋だけでは済まなかっただろう」
「はい、確かにそうでした」
邪鬼は、亡霊ではない。怨念の塊だ。三途の川を渡りきれない、悪霊が邪鬼となっている。恐らく、あの権助は仲間に体を引き裂かれたが、悪霊は残っているはずだ。むしろ、より力を蓄えているかもしれない。
「東都大の福沢准教授に、相談してみるよ」
その場で、福沢准教授の携帯に電話し、解決策を尋ねる。
「ご無沙汰です。休日に、申し訳ありません」
大方の話を説明すると、彼が俄然興味を示す。これから、直ぐ私の家に来ると言う、三人で話し合うことになった。