偽りの恋 ⅢⅩⅤ
「抽選番号は?」
彼女は折ってある紙片を、広げた。なんと、偶然にも俺と同じだった。内心喜んだが、佐藤から釘を刺されていた。
「心変わりしたら、許さないわよ・・」
その言葉が思い出され、背筋に寒さを感じた。
「金ちゃんは?」
「いや、今は喋っちゃダメなんだ」
俺は誤魔化した。彼女は、恨めしそうに俺を見つめる。
「大丈夫だよ。心配しないで、楽しんでね」
「うん、分かった。また後でね」
可愛らしい仕草で右手を軽く振った。
「金ちゃん、ちょっといいかな」
広島出身の竹沢が俺を読んだ。
「何? 竹沢さん・・」
「今、あの子と親しく話していただろう?」
「ああ、それが、どうしたんですか?」
竹沢は、こっそりと彼女の姿を追う。
「あの子と同じ番号だろう。俺に譲ってくれないかな」
「えっ、どうして知っているの?」
竹沢は彼女を見た瞬間、一緒に座りたいと思ったらしい。悪い性格じゃないと考えていたから、素早く交換をした。
「まあ、しょうがないか。でも、初心な子だから、ほどほどにしてよ」
「分かっているよ。もちろん、気遣うさ・・」
木村が、番号札を読み上げ、相手を確認させた。
千恵の視線が俺に向けられた。俺は、首を横に振った。彼女が、がっかりした様子を見せる。
「ごめんな・・」
俺の心臓が疼き、呟いてしまった。
「さあ、決まったらバスに乗ってくれ」
木村が大きな声で呼びかけた。ところが、竹沢と交換した番号の女の子が、急きょ欠席と知る。
「木村さん、俺は独りかい?」
「やあ、金ちゃん。すまんな・・」