偽りの恋 ⅣⅩⅤ
「私は、簡単にどうぞって、答えたわ」
千恵に驚いたが、佐藤の答えにも唖然とする。
「えっ、そんなこと、言ったのかい?」
「ええ、千恵ちゃんは拍子抜けし、憮然としていたわ」
「・・・」
俺は言葉を失う。
「だって、金ちゃんと私の仲は、恋人未満でしょう? だから、今なら平然としていられるもの」
確かに、二人の仲は複雑な関係ではない。むしろ、俺の望むことだ。
「うん、返事に窮するけど、間違いないと思う」
「それに、先が見えているもの。間もなくこの寮を離れ、来年には外国へ行く。そんな人に、惚れてどうするのよ」
流し目で、俺の顔色を窺う。図星に俺の胸が痛い。
「確かだ。俺だって、別れる人だと知りながら、恋を抱けない」
「でしょう? だから、最初から諦めているわ」
俺は遣る瀬無く、深く息を吐いた。
「そうか、嫌な思いをさせて、悪いね」
「ううん、金ちゃんで良かった」
「え、何が?」
佐藤は顔を赤らめ、告白した。
「初めてのキスよ。でも、これはラブ・ゲームだったわ」
切なそうに呟く。
「いや、ラブ・ゲームじゃないよ。嫌いだったら、会うことも喋ることもできない」
「フフ・・・、金ちゃんらしい。いいのよ、ありがとう」
俺に近づき、軽く唇を合わせる。
「これが、最後よ」
彼女の息遣いが荒く、フェミニンの香りが俺の鼻腔を刺激した。
「さようなら、さようなら・・」
別れの言葉を繰り返しながら、俺の唇を貪る。俺もしっかり抱きしめた。
「お願いがあるの・・」
息を凝らしてから、ポツリと言った。俺も荒くれた息を整える。
「どんなこと・・」