ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅣⅩⅤ 

「私は、簡単にどうぞって、答えたわ」
 千恵に驚いたが、佐藤の答えにも唖然とする。
「えっ、そんなこと、言ったのかい?」
「ええ、千恵ちゃんは拍子抜けし、憮然としていたわ」
「・・・」
 俺は言葉を失う。
「だって、金ちゃんと私の仲は、恋人未満でしょう? だから、今なら平然としていられるもの」
 確かに、二人の仲は複雑な関係ではない。むしろ、俺の望むことだ。
「うん、返事に窮するけど、間違いないと思う」
「それに、先が見えているもの。間もなくこの寮を離れ、来年には外国へ行く。そんな人に、惚れてどうするのよ」
 流し目で、俺の顔色を窺う。図星に俺の胸が痛い。
「確かだ。俺だって、別れる人だと知りながら、恋を抱けない」
「でしょう? だから、最初から諦めているわ」
 俺は遣る瀬無く、深く息を吐いた。
「そうか、嫌な思いをさせて、悪いね」
「ううん、金ちゃんで良かった」
「え、何が?」
 佐藤は顔を赤らめ、告白した。
「初めてのキスよ。でも、これはラブ・ゲームだったわ」
 切なそうに呟く。
「いや、ラブ・ゲームじゃないよ。嫌いだったら、会うことも喋ることもできない」
「フフ・・・、金ちゃんらしい。いいのよ、ありがとう」
 俺に近づき、軽く唇を合わせる。
「これが、最後よ」
 彼女の息遣いが荒く、フェミニンの香りが俺の鼻腔を刺激した。
「さようなら、さようなら・・」
 別れの言葉を繰り返しながら、俺の唇を貪る。俺もしっかり抱きしめた。
「お願いがあるの・・」
 息を凝らしてから、ポツリと言った。俺も荒くれた息を整える。
「どんなこと・・」

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