偽りの恋 ⅧⅩⅢ
千恵と恋をするなら、きちんとスタート・ラインを発とう。彼女を悲しませてはいけない。俺はそう考えた。
「千恵ちゃん・・。さっきさぁ・・、約束のこと、俺は言ったよね」
「うん、でも・・。内容を言ってないよ」
恐らく、困惑するだろう。もしかしたら、嘆き、泣きわめくかも。
「しばらく、会わない。それが、約束だよ」
千恵の鋭い眼差しに、俺はたじろぐ。
「嫌いだから、じゃないよ。千恵ちゃんと、本当の恋をしたいんだ」
「金ちゃんって、本当に分からない人!」
頬を膨らませ、俺を睨む。
「う~ん、上手く喋れない。俺の癖なんだな」
「癖でも、なんでもいいから、分かるように話してよ」
最初の出会いから、高崎の出来事、弥彦への旅。俺は説明した。
「千恵ちゃんとは、恋らしい恋をしてないんだ。むしろ、勘違いしている」
「金ちゃんを初めて見た時から、好きになった。これって、一目惚れでしょう。あれから、ずっと苦しかったわ」
俯き、恥じらいながら話す。
「どう、打ち明けたらいいのか、悩んだわ。それで、佐藤さんに相談したのよ」
「そうだよね、気持ちを打ち明けるのは、簡単じゃない。それに、もし断られたら、と考えれば怖くなる。うん、それが恋の始まりだ」
彼女の潤んだ瞳に、俺の顔が映る。
「そう初恋よ。それなのに、どうすれば本当の恋になるの?」
「ごめん。確かにそうだ。でも、千恵ちゃんの気持ちが、俺に伝わっていなかった。だから、不意に高崎へ来たときは、困惑した」
「だって、頭の中がこんがらがって、何も考えられなかったもん。佐藤さんが、正面から体当たりすれば、金ちゃんは、必ず受け止めてくれる。そう、言ったのよ・・」
千恵がべそをかく。いじらしい姿に、俺の胸が痛む。
「今は、千恵ちゃんの気持ちを理解し、君に恋心を持っている」
自分の気持ちが救われたと思ったのか、千恵の顔が眩しく輝く。俺はドッキとした。
「なら、いいじゃ・・」
「ま、待って! これからが、肝心だ」