偽りの恋 ⅤⅩⅠ
泊まるより、一緒に弥彦へ行った方がいいと思った。
「分かった、アニキに頼んで車を借りるよ」
携帯で兄貴に電話した。会社の車は、お盆中だから使用しないという。
「千恵ちゃん、弥彦まで車で送るよ」
「え~、本当に?」
「ああ、本当だよ」
千恵が喜ぶ。内心、俺も喜んでいた。
「じゃ、近くのファミレスに行こう」
喫茶店を出た。駅ビルの中を歩く。千恵の小さなボストン・バックを俺が持つ。
「ありがとう、金ちゃん・・」
俺の腕に、千恵が腕を絡ませてきた。千恵の冷えた肌が、俺の肌を心地よく冷やす。一瞬焦ったが、態度を見せないよう堪える。
「ふふ・・、嬉しい」
俺の顔を覗きながら、嬉しそうに微笑む。俺の腕を強引に引き寄せた。
「おっ、・・・」
「えっ、どうしたの?」
引き寄せられた腕が千恵の胸に押しつけられ、弾力的な感覚を意識した。
「いや、千恵ちゃんって、意外にふくよかなんだね」
「何よ、ふくよかって? あ~、変なこと考えたでしょう?」
俺は狼狽え、腕を引き離そうとした。
「ダメ! このままで、いいの・・」
冷や汗が噴き出るようだ。完全に前頭葉を支配されている。
ファミレスに着くと、彼女に食事の注文をさせた。俺はその間に、車を借りに行く。着替えると直ぐに戻った。
「ゆっくり食べてから、出掛けるね」
「うん、いいよ。でも、どこかで着替えたい」
またまた、困らせる発言。俺は思案に暮れる。
「分かった。これから、兄貴の会社へ行こう。今日は休みだから、工場には誰もいないよ」
食事を早く済ませ、会社に行く。