偽りの恋 ⅢⅩⅨ
「随分、簡単に諦めたね」
「反対されるのは分かっていたので、相手のご両親に直接結婚を申し込んだ」
「えっ、大胆なことをやったね。それじゃ、彼女が可哀そうと思わなかったのか?」
「う~ん。もちろん、卑怯なことだと思っています」
思い出すと、心が煮えたぎるほど辛い。最愛の人に、意味の無い過酷な仕打ち。自分の愚かさに嘆いた日々。
「俺はできなかった。だから、いつまでも苦しみを引きずっている」
「海田さんも、ですか?」
「ああ、そうだ。俺の場合、オヤジが会社を継げって言っているんだ」
彼は俺に話すのではなく、自分の気持ちを吐き出すように語った。
会社を継ぐために気持ちを整理したが、やはり、外国生活の憧れが捨てられない。諦めるために、好きな女性と婚約した。
「でもな、例え数年でもいいから、住めばって彼女に言われた」
「・・・」
「俺は決心した。先に俺が行き、後から彼女を呼び寄せる」
「良かったですね。俺は、あの人を不幸にさせると思い、断ち切ったつもりです」
「そうか、断ち切れていないだろう?」
「ふふ・・、お見通しですか? でも、諦めるしかないんです」
「ただ、まだ問題があるんさ。オヤジの会社だ。俺意外に後継ぎがいない。だから、妹の旦那を説得しているんだ」
そこへ、木村が二人のために飲み物を運んで来た。
「あっ、すみません。頂きます」
「いや、いいよ。どうせ、二人には相方がいないから・・、ごゆっくり」
「なんですか、嫌味ですか?」
木村は、海田の顔色を窺って、そそくさと行ってしまった。
「俺に気遣う必要も無いのに、どうしてなんだ」
「いや、俺だって気を使いますよ。何故だか、分かりませんけど・・」
「あはは・・、金ちゃんもか? それは不思議だ。ハハ・・」
「うふふ・・、はは・・、もちろんです。ハハ・・」
二人は眩しい日差しの空を眺め、大きな声で笑った。
「やあ、金ちゃん! 久しぶりに気持ち良く笑えたよ」