ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅣⅩⅧ 

 俺は非情と思いつつも、先に別れ寮に戻る。しばらくして、坂本が帰って来たが、互いに話すことはなかった。
 その後、一週間ほど実家の高崎へ帰る。街中を歩くと、必ずあの人の面影が甦ってしまう。憂鬱な日々に、早く寮へ戻りたいと考えた。
 朝から予定も無く呆然としていた。十時過ぎ、突然に携帯が鳴り、見知らぬ番号が表示されている。俺は迷ったが、受けることにした。
「もしもし、・・・」
 この声に聞き覚えがあるが、直ぐに反応できなかった。
「金ちゃん・・、私が誰だか、分かる?」
「えっ?」
 千恵の声と分かり、愕然とした。
「もしもし、聞こえて、いるの?」
 か細い声。不安そうに電話する千恵の顔が浮かぶ。 
「ああ、聞こえているよ。どうしたんだい? 千恵ちゃんだろう?」
「ア~ッ、分かってくれた。良かった~」
 驚くほどの歓喜な声が、俺の耳に飛び込んだ。
「・・・」
 意味が分からず、俺は声を呑みこみ黙っていた。
「金ちゃん、私ね、新幹線に乗るところなの」
「どこへ行くの?」
 一瞬、千恵の言葉が途切れる。俺は不安になった。
「あのね、今、大宮駅。弥彦のお祖母ちゃんに会いに行くの」
「弥彦? あの新潟の弥彦かい?」
「ええ、そうよ。それで、・・・」
 あり得ないことに、俺の胸が疼き出した。
「もし、もし、千恵ちゃん独りなの?」
「うん、独りよ。これから新潟へ行くけど、高崎を通るわ」
「そうだね。気を付けて行くんだよ」
 俺はホッとする。何を考え、胸が疼くんだと思った。
「金ちゃん、高崎駅に迎えに来てくれる?」
「えっ、迎えに、高崎駅に?」
 ホッとしたのは、束の間だった。胸が疼くどころか、爆発した。

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