微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅰ
最近は温暖化の所為か、極暑が続く。今年は、梅雨時期が極めて少なかった。長雨は嫌だが、情感を味わう淑やかに降る小雨、身勝手ながら恋しく思う。
そんな私の想いを応えるかのように、朝から雨が降り始めた。現実に降ると、気分が優れない。特に出勤時は、足元まで濡れて仕事に差し障る。出社すると靴を脱ぎ、用意した靴下に履き替えた。
「大河内主任、おはようございます」
相変わらず、元気な声で挨拶する若月。
「やあ、おはよう」
「久しぶりの雨は、頗る気持ちがいいですね」
私は彼の足下を見てしまった。
「あれ、若月の足は濡れていないね」
「ああ、はい、今日は車で来ましたから・・」
「そうか・・」
私は心の中で呟く。今の若いヤツは、苦労もしないで・・。
「ところで、大河内主任・・」
急に浮かぬ顔になった。
「どうした、困ったことでも起きたか?」
私に近寄り、小声で話し掛ける。
「ええ、実は声が聞こえたんです」
彼の表情から、直ぐに察した。互いに感じる別世界、社内では二人の秘密である。
「ハーイ、集まって下さい」
その時、女子事務員が朝礼を呼び掛けた。
「分かった。後で昼飯の時に聞こう」
朝礼後、二人は其々の仕事に勤しむ。