ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅤⅩ  

「それで、何時の新幹線に乗るの?」
「・・・」
 俺の質問に答えず、黙ったままカップを見詰めている。
「どうして、黙っているんだい。時間に乗り遅れたら、困るだろう・・」
「金ちゃんは、ひとりで住んでいるの?」
「いいや、アニキの工場に泊まっているよ。明日か、明後日に寮へ帰る予定だから」
「そうか、・・・」
 千恵は、何かを考え惑う様子。
「どうしたの?」
 だんだん不安になってきた。
「うん、泊まるつもりだったの」
 不安が当たった。俺の心中は右往左往に転げまわる。
「弥彦のお祖母ちゃんの家に、行くんだろう?」
「行くつもりよ。それは、明日だけど・・」
「え~、待ってよ。そんな計画で出掛けたのか? 驚いたなぁ」
 千恵が考えてることに、俺の体が震える。
「金ちゃんにお願いがあるの。聞いてくれる?」
 俺の心臓が爆発寸前になった。
「う、うん、なんだい?」
 不意にテーブルに肘をつき、顔を寄せて来た。俺は慌てて、体を後ろへ引く。
「どうして、逃げるの? こんな場所でキスするわけないわ。もう、臆病者!」
 唇を尖らせ、拗ねる仕草。本当に可愛らしいと思った。
「いや、逃げていないよ。ただ、驚いただけだ」
「ふふ・・、本当に? ふふ・・」
 笑うと、益々可愛らしさが目立つ。俺は目の前のグラスを手に取り、冷水を飲んだ。
「ああ、本当さ! それで、お願いって、なんだよ?」
「金ちゃんの家に泊まれないなら、一緒に弥彦まで行ってくれる?」
 もう、俺の心臓は分解だ。千恵の考えに追い付けない。
「なんだよ、突然に・・」
「だって、このまま行ったら、お祖母ちゃんの家に着くのは夜中よ」
 俺は考え込んだ。どうにもこうにも、答えようがない。

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