偽りの恋 ⅤⅩ
「それで、何時の新幹線に乗るの?」
「・・・」
俺の質問に答えず、黙ったままカップを見詰めている。
「どうして、黙っているんだい。時間に乗り遅れたら、困るだろう・・」
「金ちゃんは、ひとりで住んでいるの?」
「いいや、アニキの工場に泊まっているよ。明日か、明後日に寮へ帰る予定だから」
「そうか、・・・」
千恵は、何かを考え惑う様子。
「どうしたの?」
だんだん不安になってきた。
「うん、泊まるつもりだったの」
不安が当たった。俺の心中は右往左往に転げまわる。
「弥彦のお祖母ちゃんの家に、行くんだろう?」
「行くつもりよ。それは、明日だけど・・」
「え~、待ってよ。そんな計画で出掛けたのか? 驚いたなぁ」
千恵が考えてることに、俺の体が震える。
「金ちゃんにお願いがあるの。聞いてくれる?」
俺の心臓が爆発寸前になった。
「う、うん、なんだい?」
不意にテーブルに肘をつき、顔を寄せて来た。俺は慌てて、体を後ろへ引く。
「どうして、逃げるの? こんな場所でキスするわけないわ。もう、臆病者!」
唇を尖らせ、拗ねる仕草。本当に可愛らしいと思った。
「いや、逃げていないよ。ただ、驚いただけだ」
「ふふ・・、本当に? ふふ・・」
笑うと、益々可愛らしさが目立つ。俺は目の前のグラスを手に取り、冷水を飲んだ。
「ああ、本当さ! それで、お願いって、なんだよ?」
「金ちゃんの家に泊まれないなら、一緒に弥彦まで行ってくれる?」
もう、俺の心臓は分解だ。千恵の考えに追い付けない。
「なんだよ、突然に・・」
「だって、このまま行ったら、お祖母ちゃんの家に着くのは夜中よ」
俺は考え込んだ。どうにもこうにも、答えようがない。