ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅨⅩ 

 紅茶を飲み、俺はショートケーキ、彼女はチーズケーキを食べた。
「それで、これからどうするの?」
 千恵が不安そうに聞く。
「うん、俺は兄貴に結婚のことを伝えた。だから、弥彦のお祖母さんに会って、報告したい。どうかな?」
「ええ、もちろんよ。早く行きたい」
 ただ、向こうでの生活に不安が残る。先に俺だけ行き、後から彼女を呼び寄せるつもりだ。恐らく、嫌がり一緒に行くと言い張るだろう。
「金ちゃん、ん~」
 顔を火照らせ、真剣な眼差しで俺を見る。俺は戸惑う。
「ん、なんだい?」
「いつまで、下宿しているの。研修が終われば、引き揚げるんでしょう?」
「ああ、そうだね。今月中かな・・」
 後一週間もない。兄貴の工場へ帰るつもりでいるが、まだ許可を得ていなかった。
「どこへ、行くつもり?」
「うん、決まっていない」
「今から探すなんて、無理よ。それに数か月だけでしょう。そんな賃貸なんて、見つからないわ」
「だから、高崎に一旦帰ろうかと思っている。兄貴が許せばね・・」
 千恵が視線を俺に合わせ、きっぱりと言った。
「私のアパートに、来てちょうだい。金ちゃんと一緒に住みたい!」
 俺は言葉を失う。ただ見返す。彼女は、自分の言葉にはにかむ。そして、鼻を弾いた。
「ああ、・・・」
「金ちゃん、大事なことを忘れている。婚姻届、パスポート申請には現住所が必要よ」
 千恵の言う通りだ。俺は夢を追うだけで、現実を忘れていた。
「確かにそうだ。千恵ちゃん、ありがとう」


 半年後、二人は成田国際空港から、仲間が待つブラジルへ飛び立った。

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