偽りの恋 ⅣⅩⅨ
我を忘れ、駅に来てしまった。改札口で待つ間、自分の愚かさに悔んだ。予定の新幹線は、既に到着しているのに千恵の姿が見えない。俺は心配した。
「金ちゃん、私はここよ・・」
後ろを振り向くと、明るい笑顔で千恵が立っていた。ただ、周りを気遣う眼差しは、不安に怯えている。
「やあ、元気だった」
若い千恵らしい服装に、俺は驚き目を見張る。爽やかな水色のミニ・スカートにタンク・トップ姿。白いサンダルにピンク色のマニキュア。
「どうしたの? 若い女の子の姿に言葉が出ないの?」
「いや~、想像していなかったよ。とても似合うし、可愛いよ」
「でしょう?」
とりあえず、駅ビル内の喫茶店に入る。
「何が飲みたい?」
「そうね、この店は少し寒いから、ホットの紅茶でいいわ」
確かに冷房が強い。俺も同じものを注文した。
「う~、凄く大人ぽっく見える。驚いたよ」
「ふふ・・、嬉しい。金ちゃんが、どう思うか心配しちゃった」
人差し指で鼻の先を、チョンチョンと弾く。
「そんな、心配すること無いよ。今でもドキドキさ・・」
「本当に? じゃぁ、私に惚れた?」
テーブル越しに俺を見つめる。その眼差しは、幼い顔に艶やかな表情が混在していた。
「うん、嫌いじゃない」
「あ~、狡い言い方ね。もっとストレートに言えないの?」
テーブルの下で、俺の脚をサンダルで突く。
「アハハ・・、千恵ちゃんには参ったね。悔しいけど、惚れたよ」
一瞬、天井を見上げた後、視線を俺に戻した。
「やっと、言わせたわ。安心した・・」
「えっ、どうして、安心したんだ? 意味が分からない」
「金ちゃんは、知らなくていいのよ」
二人はゆっくり紅茶を飲んだ。