偽りの恋 ⅦⅩⅦ
佐藤が意味ありげに微笑んだ。
「何が面白い? 俺にとって、深刻なことだよ」
「あ、ごめん。面白いとは、思っていないわ。ただ、・・」
「ただ、って・・、なんだよ?」
不愉快になり、つっけんどんな言い方をした。
「ただ、千恵ちゃんを軽々しく考えていないと、分かったから。安心して、つい微笑んでしまったの。それが、何故いけないのよ? 可笑しな、金ちゃん」
何故不愉快なのか、俺にも分からない。
「まあ、いいや・・。少し冷静に考えるよ」
果たして、冷静に考えられるのか、自分でも判断できない。でも、考える必要がある。俺の脳が千恵の顔と姿に充満され、放って置く訳にはいかないからだ。
「じゃ、後は二人で話し合って、お願いね?」
「ああ、分かった。だけど、休まずに仕事するよう、伝えて・・」
「うん、伝えるわ」
佐藤と別れ、そそくさと寮に戻った。珍しく談話室に海田を見つける。俺は悩みを打ち明けた。
「そうか、俺はそうなると感じていた・・」
「え、本当ですか?」
「ああ、本当だ。あの子のタイプは、俺の彼女にそっくりだ」
不思議にも俺の気持ちが、幾らか和らいだ。
「そんなに似ているんですか?」
「間違いないよ。でも、あの子は美人になる素地を持っているね」
冗談なのか、本気なのか、笑いながら俺の肩を叩いた。俺は一瞬恥じらうも、心で喜んでいる。自分に呆れ、バカなヤツと思った。
「いいえ、お転婆で目茶目茶な女の子ですよ。嫁さんにしたら、大変なことになる」
一緒に笑った。
「でもさ、金ちゃん。あの子のしがらみは、どうなんだい?」
海田が心配そうに、尋ねる。
「確か、弥彦の祖母だけと思います」
「その点を確かめるべきだね。二の舞をしないように・・」
二の舞? 意味が掴めなかったが、直ぐにあの人のことだと理解した。