偽りの恋 ⅣⅩⅥ
佐藤は、一瞬言葉を選ぶために、沈黙する。俺は焦ることなく待った。
「ん~、千恵ちゃんを悲しませないで、彼女は、まだ18歳よ」
俺には、佐藤の気持ちが分かっていた。
「もちろんさ。あの旅行のとき、彼女の仕草や言葉で感じた。でも、ときめきを意識しても、心の奥に戒めていた」
「・・・」
「だから、新たな恋は決してない。それに、彼女を弄ぶつもりもない」
佐藤が俺の目を捕まえ、本心を確認する。
「分かった。金ちゃんを信じるわ」
「実際に、俺の夢を阻害する恋が、嫌なんだ」
俺の言葉に反応し、厳しい眼差しを向けた。
「あら、私が金ちゃんの夢を阻害したわけ?」
俺は佐藤の眼差しと強い言葉に、一瞬たじろぐ。
「・・・」
言葉を失った俺に、追い打ちをかける。
「そうなのね? 私と会うとき、金ちゃんの心がいつも見えなかった。やっと、理解できたわ。最初から嫌いだったのね、私のことを・・」
俺は焦った。
「そ、それは誤解だ。好き嫌いの問題じゃない」
「あ~、年上のオバサンだからでしょう?」
もう、感情が拗れ、何を言っても悪く捉えるようだ。
「佐藤さん、冷静になろうよ。俺の話し方が悪かった。謝るよ、ごめん」
「・・・」
俺は恋が下手なんだと思った。あの人に対しても、自分だけを優先して相手の心を傷つけてしまう。
「俺はね。女性の心を理解するフェミニストじゃ無いんだ。恋する価値が無い男だと思うよ」
「ふふ・・・、面白いことを言うわ」
「何が、可笑しいのさ。本当のことを白状しただけだ」
今度は、俺がムッとなり、冷静を欠いた。
「いいえ、金ちゃんは恋に薄情ではないわ。女性の気持ちが分かり過ぎるの。本当のフェミニストよ。ふふ・・・」