偽りの恋 ⅢⅩⅧ
佐藤の顔が、思い浮かぶ。嫉妬に狂った目付きで、俺を睨む。
「間もなく、ヨット・ハーバーを過ぎたら、海岸に着くよ」
急きょ予定を変更したので、事前調査ができなかった。海岸は岩だらけだ。
「なんや、めちゃアカン。泳げへん、どないするねん?」
坂本が、声を尖らし不満を言う。
「坂本君の魂胆が見え見えだ。女の子の水着姿が目的だからな」
大山が指摘した。
「え~、うっそ~!」
「まあ、嫌らしいわ~」
女の子たちが、一斉に黄色い声を上げた。
「ちゃう、ちゃう、泳ぎを教えられんと、思っただけや」
必死に弁解する。
「はい、はい、じゃあ、呼ぶまで自由解散だ」
俺は小高い岩の上へ行く。そこへ、海田が横に座った。
「金ちゃんは、いつも、何を考えているんだい?」
「え、どうしてですか?」
遥か先の水平線に目を置いたまま、ポツリと呟いた。
「うん、みんなと、ちょっと違う感じだから・・」
「ふ~ん、そう見えますか・・。でも、海田さんだって、同じですよ」
そう、彼は常に一線を置いている。誰も親しく近寄れないが、妙に身近な存在として感じられた。不思議な人柄だと俺は思っている。
「金ちゃんの場合、外国生活に何を望んでいるのか理解できない」
「俺は、夢を現実にする。それに囚われているだけかも・・」
「いや、それはみんなと同じだ。むしろ、その気持ちが大事だよ。だから、俺は彼らが好きなんだ」
海岸で屈託なく騒いでいる彼らを見た。
「そうですよね。夢を追い求めず、不満だらけの人生を過ごす人が多いです」
「それで、何故囚われているんだ?」
何故って、問われても簡単に解けない。何故だろうか。
「う~ん、一度は諦め、好きな人を選んだけど、ある人の死がきっかけかな」
海田が俺を見た。
「その好きな人は?」
「未練はあるけど、別れました」