微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩ
案の定、権助は血眼になって、私たちを探していた。御堂の行方も気にしている。御堂が雑木林で姿を消したことも、仲間から情報を得た。数匹の邪鬼を雑木林へ行かせ、状況を窺っている。
翌日の朝、私と若月は会社に連絡して、有休を得る。電話には、若月と交際を始めた女子事務員が応対。彼が言葉巧みに、彼女に伝えた。
「分かったわ。課長に説明します。でも、体が心配よ。帰りに、あなたの家へ行くわ」
「いや、いいよ来なくて・・」
彼の苦し紛れの内容に、私と福沢が俯いて笑いを堪える。
「参りましたよ。帰りに寄ると言い出したので・・。ん? これは大変だ!」
そう、私も危惧する。彼の家は、邪鬼に囲まれているはずだ。
「そりゃ、不味いことになった。もし、彼女が君の交際相手と知ったら、権助の思うつぼだ。絶対に襲う。見せしめに殺すか、人質にして君と交換を言い出すだろう」
福沢も唖然とし、非常に心配する。
「若月、彼女にメールできるか?」
「はい、LINEで連絡できます」
「昼休みに、電話連絡をするよう、伝えてくれ」
若月が直ぐにLINEでメッセージを送った。
「福沢先生、高崎へ行きましょう」
「そうですね。少し待ってください。私の助手が来ますので」
しばらく待つと、男女五人の助手が現れた。
「君たち、頼んだものは持って来たか?」
「はい、どうにか準備できました」
テーブルの上に、品物を並べる。生臭い空気が部屋中に漂う。
「こ、これは、なんですか?」
私は目を見張り、福沢に尋ねた。
「これは、鶏の血と豚の内臓です」
福沢准教授が、邪鬼と戦うため助手に用意させていた。
「恐らく、前回のケッチャプは通用しないでしょう。だから、これを畜産学科に頼み、彼らに準備させました。血はペットボトルに入れ、容易く邪鬼に浴びせられる」