偽りの恋 ⅦⅩⅧ
翌々日の夕食後、千恵から連絡が来た。
「金ちゃん、元気!」
すごく元気な声が、携帯から響く。
「ああ、元気だよ。もう少し、声を低く・・」
幸いに、談話室には誰もいなかった。ただ、誰かに聞こえたら、大変だ。
「分かった・・。それからね、もう仕事しているからね」
「そうか、良かった。それで、今日は?」
「・・・」
ほんの間、会話が途切れた。何かを話したいようだ。
「どうしたの? 言いたいことが、あるんだろう?」
「うん、次は、いつ、会えるのかなぁ。今じゃ、ダメかな・・」
千恵は心細そうに、尋ねる。俺の胸が疼く。
「いいよ。俺も聞きたいことがあるんだ」
「えっ! 本当に、今なの? 会えるのね? 嘘じゃないよね?」
彼女の反応が想像できた。恐らく目を丸くし、指先で鼻を弾いているだろう。
「嘘じゃないよ、千恵ちゃん」
「分かったわ。今から行くからね・・」
携帯が切れる。俺も急いで寮を出た。近くの小さな公園で待っていると、走って来る千恵の姿が見えた。ひぐらしがカナカナと鳴く。もう夏も終わりだ。
「金ちゃん・・」
近くに寄ると、一歩手前で止まる。俺を見つめたまま、言葉が出ない。瞳から紅涙が零れる。いじらしい姿に、俺の心が張り裂ける。
「千恵ちゃん、お出で・・」
手を差し出すと、千恵が胸に飛び込んで来た。俺は優しく抱える。
「金ちゃん、やっと会えた・・」
横のベンチに座らせる。俺の腕にしがみつき、体を寄せた。千恵の愛しさに、俺の感情が震える。
「俺も会いたかった」
腕にしがみついたまま、俺の顔を覗き視線を合わせた。俺は決心する。
「千恵ちゃん、大事な話があるんだ」
彼女は視線を放さず、小さく頷いた。