微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅢ
関越高速道の高崎インターを下り、市内へ向かう。環状線から、国道17号の烏川沿いを走る。聖石橋を渡り、目の前の観音山を目指した。
「さあ、直ぐ近くだ。心構えはいいかな」
福沢が、助手たちに告げた。彼らは前方に目を向け、ただ頷く。車内が緊張感に包まれる。
「そ、そんなにぃ、固くなったら~、素早く、う、動けないよ。リラックス、リラックス・・」
上っ調子の声で、若月が緊張を和らげようとした。
「ふふ・・、若月さんこそ・・、うふふ・・」
助手の明菜が笑ったので、他のメンバーも笑った。おかげで緊張感が薄れる。
「そうだ、その調子で行けば、大丈夫だ!」
木漏れ日の坂道を走る。しばらくして、左側に徳明園の標識が見えた。
「到着だ。直ぐに車から降りないで、付近の様子をチェックする。いいね」
徳明園の入り口近くに、車を駐車させる。幸いにも、平日の昼時間なので、他の車は一台も停まっていなかった。
「最初に福沢先生と私が、入場券とご朱印の札を購入してくる。それまで、待機だ。若月は、彼らが見えるから、周囲を確認して欲しい」
「はい、分かりました」
「えっ、若月さんは、邪鬼の姿が見えるのですか?」
明菜が、若月の顔をまじまじと見つめる。
「いや~、自慢することじゃないが、見えるんだ。だから、僕が狙われているんだよ」
「ほ、本当なんですね? 先生から説明されたけど、恐れ入った」
リーダーの畠山が感心する。他のメンバーからも直視され、若月が顔を赤らめた。
「でもね、これから会う千代さんと御堂さんは、あの世の人とは思えない美人なんだ。とても驚くよ」
「何が、驚くんだい?」
戻って来た私に聞かれ、若月が慌てる。
「あっ、主任。いや、千代さんと御堂さんのことを・・」
全員に、入場券とご朱印の札が配られた。周囲を窺いながら、車から降りる。その時、私らの行動を妨げようと、駐車場周辺の木々がザワザワと揺れた。