偽りの恋 ⅢⅩⅣ
バスの工具箱からスパナを出し、ひもで結びつける。
「どうだ、これで十分にギアを動かせる」
仕方なく、寮へ戻ることにした。当直の先生に頼み、実習室を開けてもらう。
「溶接は誰が一番上手いんだ?」
海田が聞く。坂本が手を上げた。
「まかしといて、めちゃ上手く仕上げるさかい・・」
確かに、坂本の腕は間違いなかった。あっという間に仕上げた。
「どやねん・・」
「ほんまに、凄いやん」
その手際に俺は驚き、彼の脇腹を小突いた。
「ひぃや~、こしょばいこと、せ~へんや。金ちゃん!」
その場の皆が大笑い。
「ところで、この状態では、三浦半島は無理でしょう」
幹事の木村が危惧する。
「そうだな、近い場所に変更するか・・」
結局、話し合いの結果、真鶴岬に変更となった。木村が相手の女子寮へ連絡する。
翌日の日曜日、朝六時に集合。副幹事の木村が、抽選の紙を配る。
「相手の番号と一致したら、座席を決める。いいね!」
三日前の晩、佐藤が旅行のメンバーを教えてくれた。
「千恵ちゃんと言う可愛い子が行くわ。あの子が、心配していたの。誰なら、安心かってね」
「別に誰でも、問題無いよ。悪いヤツはいないから・・」
「もし、何か嫌ことが有ったら、金ちゃんに話しなさいって言ったわ」
「えっ、俺に? なんでさ?」
「うふふ・・、だって、私の彼氏だからよ」
「あっはは・・、そんなこと、喋ったんか」
「ダメだったかしら?」
佐藤の言う可愛い子って、どの子だろう。
「金ちゃん・・」
後ろから、怖々と声を掛けられる。振り向くと、幼顔の女の子が立っていた。
「ああ、俺だけど・・」
「あのう・・」
「そうか、君が千恵ちゃんか?」
パッと顔が赤くなり、小さく頷く。俺の心がときめく。