偽りの恋 ⅤⅩⅧ
千恵が首に腕を回し、激しく体を寄せる。決壊した二人の煩悩は、危険な状態になった。俺の手が、彼女の体を弄ぶ。千恵が切ない声を出した。
その時、事務所の電話が大きく鳴った。その音に、俺の体が敏感に危険を察し、千恵の体を引き離す。
「千恵ちゃん、ごめん・・」
「あ~、なんで? こんな時に、電話が・・」
興奮を抑え切れず、恨みがましげに俺の顔を見る。俺の心は疾しさに、安堵した。
「電話に出ないと困るから、ちょっと待ってね」
急ぎその場から離れる。動悸が治まらず、一呼吸を置いて電話に出た。相手と話しながらも、千恵の残り香が鼻を突く。
要件が済むと、部屋に戻った。千恵がベッドに腰掛け、両手で顔を覆っている。
「さあ、出掛けよう」
彼女に近寄らず、冷静を装い俺は伝える。千恵が顔を上げ、鋭い眼差しで見詰めた。落ち着かせるために、冷蔵庫からサイダーを取り出し手渡す。
「あぁ、いいチャンスだったのに、残念ね」
冷たいサイダーに、熱くなった彼女の煩悩が落ち着きを取り戻す。
「自分でも驚いたよ。参ったなぁ~」
妄想は欲望を発火させる。千恵の着替える姿に、一瞬妄想を浮かべた。その結果、俺の欲望が暴徒化となった。
「困ること無いでしょう。嬉しかったくせに・・」
確かに、心がときめいた。しかし、俺は約束を破り、後悔している。
「ああ、そうだね。でも、千恵ちゃんの唇を盗んじゃった。いけないことだ・・」
「そうよ。窃盗罪で警察に訴えちゃうかな?」
美しく艶めかしい流し目で俺を見詰める。
「支度ができたら、出掛けるよ」
このままでは、収まりがつかない。早く逃げ出すことにした。
「よし、これで金ちゃんの心を掴んだわ。佐藤さんと同等に話せるもん」
「えっ、なんてことを・・」
俺は、彼女の言葉に困り果てた。