ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅧⅩⅠ 

「まだ、学校が終わっていない。それに研修もあり、どこへ行けるか分からないんだ」
 千恵は視線を外すことなく、俺の言葉を聞いている。
「だから、結婚なんて考えられない。千恵ちゃんも若いしね・・」
「9月で、19になるわ。待っていたら、おばさんになっちゃう」
「あはは・・、佐藤さんに聞かれたら、叱られるよ」
「そうか、うふふ・・」
 俺は千恵の手を握り、再度ベンチに腰掛ける。
「それでね、時間が掛かるから、その間に色々経験しなよ」
「例えば?」
 しばらく考える。彼女も考えながら、俺の言葉を待った。
「それは、千恵ちゃんが探すしかない。だって、強制できる立場じゃないから・・」
「金ちゃんが言えば、私はなんでもやるわ。将来のご主人様だもん」
 俺は降参だ。千恵の考えは、既に俺より前向きだ。
「千恵ちゃん、俺と君は恋のスタート・ラインにいる。結婚とは、その先にあるゴールだよ。恋と愛では、雲泥の差がある」
 千恵の瞳が瞬時に輝いた。
「私は、金ちゃんを愛しているもん。だから、問題無いよ」
「いや、まだ愛じゃない。好きだから、愛していると思うカップルが多い。でも、その結果、簡単に破たんする」
 彼女は首を傾げ、俺の言葉を不思議な感覚で捉えている。
「真実の愛を感じるのは、容易くない。恋の動機は一瞬に決まるが、愛の動機は複雑だよ。偽りの恋をすると、真実の愛が隠れてしまう」
 俺の脳が求めていた真実の愛を、俺自身が壊してしまった。あの人との愛は、真実だったはず。
「あれは、偽りの恋だったのか・・」
 何気なく呟いた。
「えっ、あれって何? 偽りの恋?」
 俺の呟きに、素早く千恵が反応した。俺も驚いた。
「あっ、俺は何を・・」
 ギラギラする視線を俺に浴びせる。俺の腕を強く抓った。
「イテテ、あ~、痛いな。なんで抓るのさ・・」
「だって、隠し事、しているんでしょう。私に?」

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