ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅤⅩⅢ 

 俺の両腕が勝手に動いた。
「どうして・・なの?」
 千恵を俺の胸から引き離し、彼女の瞳を見詰める。
「うん、君に恋する資格が、俺には無いんだ」
「嘘よ、絶対に嘘よ。佐藤さんとは付き合ったじゃない」
 再び、俺の胸の中に飛び込みしがみつく。
「あれは、恋じゃない。それは佐藤さんも承知だ。気紛れの交際だよ」
 千恵の体が固まる。
「え、・・・」
「佐藤さんには、悪いと思っている。でも、彼女は怒っていない」
 千恵を勉強机の椅子に、そっと座らせる。俺はベッドに腰掛けた。
「俺が寮を出たら、二度とあの町には戻らない。彼女は、それを理解している。だから、互いに恋人の真似をしているだけだ」
 俺を見詰めたまま、信じられないと首を傾げる。彼女が鼻をチョンチョンと人差し指で弾く。堪らなく可愛いと思った。そのまま、下に目が行く。
「あっ!」
 急いで天井を見上げた。
「えっ、どうしたの?」
 俺の声に驚くが、直ぐに気付く。
「あ~、嫌らしい! 金ちゃん、覗いたなあ~」
 慌て狼狽える俺を睨みつけた。
「い、いやっ、覗いていない。たまたま目が行って、水色が見えてしまっただけだ」
 俺は体中が汗ばんだ。直ぐに冷房を入れる。爽やかな風が心地よい。
「うん、分かっているわよ。他の人だったら、黙って見ているはずだもの。金ちゃんらしい。だから好きなの」
 だが、千恵は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「だけど、俺だって男だよ。千恵ちゃんのような可愛い女の子が、無防備な姿で目の前にいれば、気が可笑しくなっちゃう・・」
 彼女の恥ずかしさを思い、気遣って冗談半分に喋った。
「いいのよ。私は、そのつもりなんだから・・」
 流し目で俺を見る。その言葉と仕草に、俺の脳が空っぽになった。

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