偽りの恋 ⅤⅩⅢ
俺の両腕が勝手に動いた。
「どうして・・なの?」
千恵を俺の胸から引き離し、彼女の瞳を見詰める。
「うん、君に恋する資格が、俺には無いんだ」
「嘘よ、絶対に嘘よ。佐藤さんとは付き合ったじゃない」
再び、俺の胸の中に飛び込みしがみつく。
「あれは、恋じゃない。それは佐藤さんも承知だ。気紛れの交際だよ」
千恵の体が固まる。
「え、・・・」
「佐藤さんには、悪いと思っている。でも、彼女は怒っていない」
千恵を勉強机の椅子に、そっと座らせる。俺はベッドに腰掛けた。
「俺が寮を出たら、二度とあの町には戻らない。彼女は、それを理解している。だから、互いに恋人の真似をしているだけだ」
俺を見詰めたまま、信じられないと首を傾げる。彼女が鼻をチョンチョンと人差し指で弾く。堪らなく可愛いと思った。そのまま、下に目が行く。
「あっ!」
急いで天井を見上げた。
「えっ、どうしたの?」
俺の声に驚くが、直ぐに気付く。
「あ~、嫌らしい! 金ちゃん、覗いたなあ~」
慌て狼狽える俺を睨みつけた。
「い、いやっ、覗いていない。たまたま目が行って、水色が見えてしまっただけだ」
俺は体中が汗ばんだ。直ぐに冷房を入れる。爽やかな風が心地よい。
「うん、分かっているわよ。他の人だったら、黙って見ているはずだもの。金ちゃんらしい。だから好きなの」
だが、千恵は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「だけど、俺だって男だよ。千恵ちゃんのような可愛い女の子が、無防備な姿で目の前にいれば、気が可笑しくなっちゃう・・」
彼女の恥ずかしさを思い、気遣って冗談半分に喋った。
「いいのよ。私は、そのつもりなんだから・・」
流し目で俺を見る。その言葉と仕草に、俺の脳が空っぽになった。