偽りの恋 ⅦⅩⅡ
俺は理解に苦しむ。
「金ちゃんらしい、言い回しね。うふふ・・」
「家に帰ったら、突然に電話だよ。意味が分からず、駅まで迎えに入ったけど・・」
佐藤の説明によると、数日前に千恵から相談を受ける。祖母からお盆に帰るよう勧められ、帰りたくないと悩んでいた。
「千恵ちゃん・・。お祖母ちゃんのことは、とても心配してた。でも、帰る勇気がなかったの。故郷に、嫌な経験があってね」
「え、嫌な経験?」
「そう、あの村の不良グループから、仲間になれと追い回されたらしいわ」
「・・・」
俺は耳を塞ぎたくなった。身の危険を感じた祖母が、高校卒業と同時にあの村から遠ざけたという。
「だから、金ちゃんを誘って行きなさいと、アドバイスしたのよ」
「そうか、理解したよ。でも、前もって連絡をくれればいいのに・・」
「あら、千恵ちゃんはしなかったの?」
俺は、ため息をつき憮然と答える。
「ああ、突然さ。今、高崎駅にいるからって、言われたよ」
「あの子らしいわ。恥ずかしかったのよ。だって、金ちゃんが大好きだから・・」
俺は答える言葉を失う。今回のことで、十分に体験したから分かる。と言って、佐藤さんに説明できる訳がない。
「うふふ・・、満更でもない顔ね。金ちゃんは、直ぐに分かる」
「そ、そんなことない」
俺は慌てた。佐藤が俺の瞳を探る。
「いいのよ。表情で分かったから・・。金ちゃんなら安心よ」
「それは困る。佐藤さんだって、俺の気持ちを知っているだろう?」
「もちろん、理解しているわ。でもね、人の気持ちは、前に進めば変わるものよ。そうでしょう?」
俺は曖昧に頷くしか、考えられなかった。
「もう、今日は遅いから、俺は帰るね。千恵ちゃんに宜しく・・」
「ええ、分かったわ。なにかあったら、連絡させるね。おやすみなさい」
寮に戻った俺は、自分のベッドに横たわる。この二日間の行動を思い起こした。