湖畔 (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅰ
今年の夏は、台風、地震、大洪水、火山の噴火など、自然の変事が猛威を振るう。特に、厳しい酷暑が、日本国内の記録を更新している。
東都大学の研究室内も、エアコンがフル回転。
「教授、この暑さに耐えきれないですよ」
邪鬼対策に窓も無く、密閉状態の室内だ。二年の渡瀬が、不満を言う。
「慣れるしかないだろう。上の五階へ行ってみれば・・」
リーダーの畠山が眉をしかめ、不満の渡瀬をたしなめる。
「えっ、五階ですか?」
「ああ、そうだっ!」
煩わしく思い、はねつけるように答えた。先輩の言葉に気まずく、部屋から姿を消す。
「畠山君、何を苛立っているんだ」
准教授の福山が尋ねる。
「いいえ、苛立っている訳ではありません。彼が言うように、確かにこの部屋は暑い。でも、私の頭を煩わせているのは、他のことです」
畠山は話すべきか、迷っていた。
「ん、どうした? 私に、話せない内容なのか・・」
畠山の知り合いから、予期しない話が舞い込んだ。妙な内容に、彼も信じがたく思っている。
「ええ、実は・・。あの・・」
福山は席を立ち、畠山の近くに寄る。エアコンの風が最も効果のあるソファに、二人は座った。
「先日、地質学部の知り合いから、不思議な話を聞かされました」
「あら、その噂なら私も聞いたわ」
畠山の話を耳にした明菜が、ソファにやって来る。
「北軽井沢の小さな湖でしょう?」
横に座った明菜の顔を、咄嗟に見る畠山。
「うん、そうだけど・・」