微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅢ
その夜は、何も起こらず朝を迎えた。車に乗らず、電車で出勤する。
「主任、今日の夜は、どうしますか?」
「そうだな、福沢先生から報告が来るかもしれん。後で、連絡する」
午前中は、互いの仕事に集中する。昼食も別だった。
「大河内さん、電話です」
退社時間の間際に、女子事務員から呼ばれ電話に出る。
「はい、大河内ですが・・」
「福沢です、今戻りました。今夜、時間が取れますか?」
「あっ、先生。お疲れ様です。はい、大丈夫です」
福沢准教授から報告の電話であった。新宿の駅前で落ち合う約束をする。私は内線電話で若月に知らせた。退社後、中央線で新宿へ向かう。
「先生は、何か言ってませんでしたか?」
待ちきれない若月が、電車内で聞いてきた。
「いや、電話では詳細を話さなかった。でも、何かを探したらしい」
若月は、そわそわと車内を見渡す。
「あっ、ウソだろう・・。とんでもなヤツだ」
私の横っ腹を小突く。
「ん、どうした?」
「主任、一つ向こうのドアを、そっと見てください。ヤツの仲間がいますよ」
教えられたドアの辺りを、何気なく装い流し見る。
「ああ、本当だ。権助の仲間がついに現れたか・・」
周りの人たちには、普通の人間の姿でしか見えない。
「千代さんのお陰で、ヤツラの姿が見えたな」
「えっ、千代さんのお陰?」
「最後の瞬間に、君の頭に手をかざした。あれは、千代さんが先を見据えて、君に能力を授けたんだ」
「あんな不細工で恐ろしい姿、見たくも無いですよ」
「これで、不意に襲われること無く、危険を回避できるんだ」