ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅤⅩⅨ 

 どうにか出発できた。早く高崎から離れることが、最善だと思う。関越高速に入ると、疎らな交通量に緊張が緩む。
「ねぇ、金ちゃん・・」
「うん、なんだい?」
「まだ答えていないよ」
 俺は忘れていたことを思い出す。体が強張り、ハンドルを握る手に力が入った。
「あ~ぁ、そうか。忘れていた」
 前方に目を配り、思案する。恋愛関係になった女性は、幾人かいるが寝たことは無い。
それに、結婚まで考えたあの人とは、手を握ることさえ叶わなかった。いや、嫌われることを恐れ、触れることができなかった。
「どうして、喋れないの?」
 運転する俺の横顔を、執拗に見詰める。ハンドルを握る腕に、千恵の手が置かれた。
「う~ん、仕方がない。白状するよ・・」
 遠く前方を走る車のテールランプ。赤い光に視線を合わせ、真実を打ち明ける。
「本当に、俺は女性と寝たことが無い。佐藤さんのキスだって、気紛れが原因だよ」
「じゃ、私とのキスは、どうなの?」
 腕に置かれた千恵の手が、力強く握る。彼女の真剣さが伝わった。
「気紛れではないよ。だけど・・」
 俺は言葉を濁し、彼女を傷つけたくないと心から思った。
「だけど?」
「前も言ったように、俺には大事な計画が有る。そのためには、切実な恋や愛を交わすことができない。結婚さえ諦めた。これが現実だ」
 俺の腕から千恵の手が放れた。
「ごめんな。俺は、卑怯なヤツなんだ。こんな男は、千恵ちゃんの彼氏には不向きで失格だ」
 千恵も前方を見詰める。ただ、彼女には何も目に入らない。恐らく、心の中で自問自答を繰り返しているのであろう。
「でも、いいの。初めて恋する人だから・・」
 切ない声で、ポツリと呟いた。

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