偽りの恋 ⅥⅩⅥ
気まずい思いで帰りの支度をする。千恵は無言のまま、事務所の椅子に座っていた。
時間を確認すると、夕刻の六時を過ぎていた。
「準備は、できたかな?」
「・・・」
相変わらず、俯いて反応しない。俺は千恵の前にしゃがみ、下から覗いた。
「いい加減に、許してくれよ。もう、あんなことは絶対にやらないから」
俺は手を合わせ、拝む仕草をする。すると、上目で俺を見た。
「金ちゃんの大バカさん!」
か細い声で叱り、平手で俺の頭を数回叩いた。
「アッ!」
その拍子に、俺は尻餅をつく。
「うふふ・・、金ちゃんが悪いのよ。ふふ・・」
俺の間抜けな格好に、千恵が笑った。
「あはは・・、千恵ちゃんが笑った。はは・・、良かった」
やはり、千恵の笑顔は麗しい。
「おっ! まずい!」
彼女の短いスカートが、乱れ捲れていた。俺は直ぐに横を向いて、立ち上がる。
「あっ、また覗いたなあ~。金ちゃんって、本当に嫌らしい人ね」
俺を指差し、ねめつける。
「そ、そんな。俺は覗いていない。神様に誓うよ」
「何を神様に誓うの? 女性の下着を覗いて、神様が呆れるわ」
「はい、はい、私が悪うございました。千恵様神様、お許しください」
俺は低頭し、謝った。
「うん、許す。その代わりに・・」
咄嗟に嫌な予感が背筋をなぞる。
「その代わりにって?」
頭を持ち上げ、千恵の顔を見た。茶褐色の瞳が魅力的に輝き、俺を誘い込む。
「結婚する約束を・・、して欲しいの?」
チャームな瞳に誘われた俺は、迷路に彷徨い途方に暮れる。