微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ
昼時間に、若月が迎えに来た。一緒に食事するが、今夜の約束を話すべきか私は迷う。
「主任、箸が動かないですが、お腹が空いていないんですか?」
「ん? いや、考え事をしていたんだ」
「何をですか? 私に話せば、楽になりますよ」
若月らしいと思った。私は決心する。
「実はな、今朝のことだが・・」
有りのままに、説明した。名刺も見せる。
「そんな美しい女性で、千代さんに似ている。本当ですか?」
瞳を輝かせた。でも、直ぐに訝る。
「なんだよ、その目つきは・・」
「だって、本当は私抜きで会うつもりだった。そうでしょう?」
「いやしくも、私がそんなことをするか! 迷う理由が有るからだ」
後ろ暗い本心を見抜かれ、私は焦り高飛車な態度に出た。
「ご、ごめんなさい。つい、千代さんを思い出し、羨ましくて・・」
彼の謙虚な態度に、私も迂闊な発言をしたと後悔する。
「いやいや、私も悪かった。ただ、相手の存在が不明だから、最初は私だけで会おうと思った。でも、今夜は一緒に行こう」
「ほ、本当ですか。あ~、良かった」
彼は笑顔を満面に見せる。今回の問題は彼が中心だから、迷う必要はなかった。私も納得し、胸を撫で下ろす。
「福沢先生にも、知らせるべきか悩んでいる。若月は、どう思う?」
若月は一瞬首を傾げるが、明確に答えた。
「知らせるべきだと思います。先生もこの戦いの仲間ですよ」
「そうだな。戦う仲間で、それに知識が豊富だものな・・」
私は、その場で連絡する。
「ええ、分かりました。必ず、伺いますので、後ほど場所を知らせてください」
大まかに説明すると、やはり福沢も喜んだ。
「ところで、主任。場所は、どこで落ち合う予定ですか?」
彼女が敵味方のどちらなのか、危ぶんでいる。だから、約束時間ぎりぎりまで決めないつもりでいた。邪鬼のヤツらに漏れたら大変だ。