偽りの恋 ⅢⅩⅦ
突然に渡されたので、慌て狼狽える。
「えっ、俺に?」
「うふふ・・、そうよ。だって、独りで可哀そうだから・・」
「そうか、慰めのチョコなんだ」
「いいえ、告白のチョコよ。ねぇ~、秋ちゃん」
首を傾げ、誘惑する仕草を見せる。俺の心臓が飛び跳ねた。
「ワォ、本当に、信じられない?」
「ふふ・・、ハハ・・、信じたの?」
二人して、笑い出す。俺は呆気にとられ、声も出ない。
「なんだよ、千恵ちゃん。二人して、からかうなよ」
驚いたことに、俺は一瞬本気になっていた。
「あ~、顔が真っ赤よ。千恵ちゃんに惚れたんだ」
「なにを騒いでいるんだよ」
俺たちの様子に、竹沢が近寄って来た。
「いや、なんでもないよ。独りの俺を慰めているだけだ」
面白くなさそうに、俺の顔をしげしげと眺める。
「あっ、疑っている目付きだ・・」
すると、千恵が予想外な言葉を言った。
「だって、本当に好きなんだもの」
「わ~、千恵ちゃん。凄い!」
木村が、トイレ休憩の終わりを告げた。再び、バスに乗り込む。
「いや~、参ったね。竹沢さん、冗談だよ、気にしないで・・」
竹沢は、不機嫌な顔でバスに乗る。横に座る千恵が、小さな声で慰めた。
「どうした?」
運転席の海田が尋ねた。
「いや、冗談に告白するから、驚いた・・」
「誰が告白?」
「竹沢さんの隣に座った女の子ですよ。だから、竹沢さんが拗ねちゃった」
海田が大笑いした。後ろの席が、ビックリしてシーンと静かになる。