ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅥⅩⅢ 

 谷川の名水冷やしラーメンを注文。二人は一時休戦状態。俺はゆっくり味わった。ガラス越しに望める谷川岳の緑に囲まれ、気分が穏やかになる。先に食べ終わった俺は、何気なく千恵の食べる様子を見ていた。
「ねえ、・・・」
 千恵の足が、俺の脛を小突く。
「ん? 何が言いたい?」
 警戒することなく、ぼんやりと尋ねる。
「本当に、ダメなの?」
 割り箸に麺を絡ませ、おずおずと問い返す。
「だから、何がダメなんだ。意味が分かんないよ、千恵ちゃん・・」
 突然のことで、千恵の質問が飲み込めなかった。
「・・・」
 箸を手に持ったまま、俯いて肩を震わせる。彼女は泣いていた。その姿に、俺の心は深い落とし穴へ転がる思いだ。
「千恵ちゃん、外に出ようか?」
 彼女は箸を置き、黙って頷き席を立った。俺も立ち上がり、千恵の手を握りレストランから出る。表に出ると、千恵の肩を抱いた。
「風が気持ち良いね。少し、そこのベンチに座ろうよ」
 千恵は反対もせず、並んで腰掛ける。深い山並みが、前に広がる景色を眺めた。
「もしかして、結婚のことかい?」
「うん、・・・」
「やはりな。う~ん、困ったね」
 肩に掛けていた小さな白いポーチから、二つのお守りを取り出した。その一つを俺に渡す。
「えっ、俺に?」
「うん、祖母ちゃんが寄越したの」
 俺はしげしげと見詰めた。弥彦神社のお守りであった。
「これを、二人で持っていれば、幸せになるからねって」
 千恵が濡れた瞳で俺の心を覗いた。やはり、俺の心は穴の中を転がって行く。

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