偽りの恋 ⅦⅩⅣ
それからの数日は、何故か苛立ち落ち着かない。千恵から音沙汰が無く、俺の脳は完全に支配された。残暑と千恵の思いが、俺を焼き焦がす。
ほぼ一週間後、佐藤から呼び出される。
「今晩は、まだ暑いわね。元気だった?」
「うん、まあね。ところで、今日はなんの話かな?」
昼間より幾分暑さが和らぐも、未だに蒸し暑く気分が優れない。団扇でバタバタとあおぎ続ける。
「千恵ちゃんから、事細かく聞いたわ。時折、べそをかきながらね」
俺の心臓が凍り、言葉を失う。本当に事細かく喋ったのか、信じられない。
「・・・」
「あら、表情が変わった。疾しいと思っているのね」
「・・・」
疾しいと言われ、俺の脳が目茶目茶に崩壊。
「でも、安心して。私も千恵ちゃんも、金ちゃんを嫌っていない」
「ふぅ~」
俺は大きく息を吐いた。
「ふふ・・、でも、二人に嫉妬を覚えたわ」
俯く佐藤が、上目で俺を見る。その視線は愁いを帯びていた。
「俺の心が幾度も壊れかけ、寸前のところで耐えた。だけどね、千恵ちゃんのピュアな気持ちが、俺の決意を弱めている」
「そうね。私も感じた。あの子だったら、金ちゃんの心を掴んで離さないと思う」
やはりな。彼女も感じているんだ。
「確かに、そうだ。俺にとって、初めて経験するタイプの女の子だよ」
「金ちゃんに、お似合いの子よ。どんなに辛くても、あなたに従うわ」
それが、困るんだ。俺は常に自由な行動を独りでやってきた。
「いいや、俺は振り回されるはずだ」
「金ちゃん! あの子を信じなさい。今は、金ちゃんに夢中なの。だから、煩わしく思うでしょうね。でも、あなたの心をしっかり捕らえたら、純情可憐な子に戻るわ」
純情? 可憐? うん、確かに素材はある。容姿も完全だ。
「うふふ・・、ハハハ・・、確かにね。千恵ちゃんは完璧だ」
「なんだか、嫌らしい笑いね。フフ・・」