偽りの恋 ⅦⅩⅢ
弥彦の内容が分かっていれば、同じ新幹線に乗って行けたのに。どこかで、歯車が狂った。工場へ連れて行かない方法を、考えるべきだった。
「金ちゃん、いつまで寝ているんだ」
同室の佐川に起こされる。昨晩は心身共に疲れ、いつの間にか熟睡したようだ。夢の中に千恵が映し出される。だが、肝心なところで途切れた。
「早く行かないと、朝食が無くなるよ」
「あっ、そうか。あ~、腹が減った」
俺は洗面し、急いで食堂へ行った。郷里から戻っていない数人を除き、全員が食事を終えるところであった。
「金ちゃん、おはようさん!」
坂本が声を掛ける。
「やあ、おはよう」
「あの子と、めちゃ、ええことになったんかい?」
坂本が、大きな声で喋るから、みんなの耳に入る。視線が俺に集まった。
「誰、誰なんだ、その子は?」
「あの年上の子か?」
勝手に想像して騒ぐ。
「ほんまに、おもろい話やねん。真鶴岬のめちゃ可愛い子や。確か・・」
「あっ、千恵ちゃんだ」
竹沢が、恨めしい目で俺を睨む。
「しゃあないやろ、いや、仕方ないだろう。勝手に訪ねて来たんだ」
「おいおい、本当か?」
「嘘だろう、どうして金ちゃんを・・」
俺は簡単に説明。もちろん、キッスの話は省いた。
「そうか、それじゃ帰れないなあ。でも、俺に相談してくれれば、喜んで行ったのに残念だ」
竹沢はブツブツと独り言。
「しんどい話やで、竹沢君。それはアカンよ。千恵ちゃんは、ほんまに金ちゃんを好とる」
しばらくして、全員が無関心を装って食堂から消えた。俺は黙って食事を続ける