微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅥ
二人の美しさに、助手たちが危険な現状を忘れ、見惚れてしまった。
「あらあら、しっかりしてちょうだい。危険が迫っているわ」
御堂が、たしなめる。
「そうだよ、これからが本番だ。気を引き締めていかないと・・」
若月も声を掛ける。
「それで、この後は何をすれば良いのですか?」
私が、千代に尋ねた。
「今から、守護や防人たちが、出てまいります。ただし、決して話し掛けないで下さい」
「え、何故ですか?」
「はい、彼らは私たちと異なり、この世に存在しない霊です。話し掛けると、大変なことが起きてしまう」
千代の説明によれば、現世の人間が話し掛けると、存在しない体の魂が抜かれ、悪霊が宿ってしまう。この現状であれば、権助の仲間が魂の抜け殻を奪うことである。
「なるほど、それは恐ろしいことだ」
その話を福沢准教授に説明し、助手たちに必ず守るよう伝えた。全員が納得する。
「さあ、目を閉じてね。合図したら開けていいわ」
観音像の後ろから、眩しい光が発散した。その場の全員が目を閉じる。同時に、入り口方向で邪鬼の唸り声が聞こえてきた。
「はい、目を開けていいわ」
千代の声で、目を開ける。なんと、そこには逞しい守護や防人たちが並んでいた。
「冥府の勇者たちよ! 忌まわしき邪鬼を懲らしめ、冥府の闇に葬りなさい!」
御堂が、透き通る声で告げる。
「おう! 畏まりました」
地の底から湧くような声。私たちは岩壁に沿って並び、不思議な光景を無言で眺めていた。信じられないことが、現実に起きている。決して幻覚ではない。
甲冑姿の守護や防人が、整列して洞窟の外へ向かう。
「治まるまで、この場から動かないで下さい。絶対に、よろしいですね」
千代が厳格に伝える。私と福沢は、互いに目を合わせ頷いた。