偽りの恋 ⅢⅩⅥ
仕方なく、俺は助手席に座った。運転する海田が笑う。
「相手のいない俺が愉快ですか?」
「あはは・・、まあ、そうだな。俺なんか、最初から予定していないよ」
「海田さんは、許婚がいるらしいじゃないですか・・」
俺は、運転する海田と話す。
「ああ、そうだよ。でも、結婚するか分からん」
「え~、どうしてですか?」
「海外で生活することを、反対しているんだ。とにかく、難しい状況さ」
やはり、俺だけでなかった。人それぞれに、問題を抱えているんだ。あの人の面影が、俺の脳裏を過る。
「どうした? 金ちゃんも問題が有るんか?」
「いや、もう済みました。ちょっと辛いけど・・」
小田原を抜け、真鶴に向かう。天候が良かった。俺は振り返り、後ろの席を眺めた。恨めしそうに、俺を見つめる千恵の視線。
「金ちゃん! ほら、助手は前を見て・・」
竹沢が、揶揄を飛ばす。
「ほんまに、可哀そうやなぁ~」
坂本の言葉に、バス中が大笑い。
「かめへん、ほっといてんか~」
下手な関西弁に、またもや大笑いする。千恵も可愛らしく笑っていた。
「孤独な金ちゃんに、乾杯~」
道中の雰囲気を心配していた大山が、大きな声で音頭を取った。すると、全員が声を上げる。
「はい、はい、ありがとうございます」
俺は自棄になり、礼を言った。
「金ちゃん、いいじゃないか。バスの雰囲気が良くなったから・・」
海田が俺を慰めた。確かに、バスの中が騒がしくなっている。
「ええ、そうですね。楽しい旅になれば・・」
しばらくして、トイレタイムの休憩をする。バスから降りて、タバコを吸っていると声を掛けられた。
「はい、金ちゃん・・」
千恵ともう一人の子が、俺にチョコレート渡した。