ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅣⅩⅣ 

 バス旅行から、三日目の晩。佐藤から呼び出された。
 約束の時間を過ぎても現れず、俺は引き返そうと思った。そこへ、慌てて走って来る佐藤の姿。
「今晩は~、ご、ご免なさい」
「体中を蚊に刺され、痒くて我慢できないよ。もう、帰ろうかと思った」
 俺の不機嫌な様子に、身を小さく縮ませ謝る。
「出掛けようとしたら、千恵ちゃんに呼び止められたの。ご免なさいね」
 千恵の名前にドキッとした。表情を隠すために、暗がりへ顔を向ける。
「どうしたの? 顔を背けて・・」
「いや、別に・・、誰かがいるような気がしたんだ」
「うそ、やめてよ。怖いわ」
 佐藤が体を寄せて来た。湯上りの香りが漂う。
「大丈夫だよ、誰もいないから」
「本当に?」
「ああ、いないよ。それで・・、俺に聞きたいって、どんなこと?」
「うん、来週に市議会議員の選挙があるけど、そのお願いをしたいの」
 彼女は宗教関係の集まりに参加していた。宗教関係者が立候補したらしい。
「別に、いいよ。修了したら出て行く身だ。それに、この土地には、特にしがらみが無いもんね」
「自分以外に、必ず一票を確保しなければいけないの。ありがとう・・」
 俺はホッとした。千恵のことを聞かれると思ったからだ。
「じゃ、これで帰るね。痒くて堪らないよ」
「あっ、待って!」
「ん、まだ何かあるの?」
 嫌な予感が、背筋を冷やす。
「ええ、先ほど出掛けるときに、千恵ちゃんから宣告されたわ」
 やはり、千恵のことだった。
「えっ、何を宣告したんだ?」
 佐藤の視線は、俺の心臓を突き刺す。
「金ちゃんを私から奪い取るって・・」
「え~、凄いことを言うね。参ったなぁ~」

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