偽りの恋 ⅥⅩ
新潟弥彦の旅は、千恵のことを思い恋人らしく振る舞う。祖母の家や弥彦神社参拝は、楽しい思い出となった。
「あの子は不憫な孫なんよ、だから頼みますね」
千恵の祖母が、彼女の生い立ちを打ち明ける。幼き時期に母が病死、父が再婚すると疎まれる存在となった。母の実家に預けられ、高校卒業と同時に神奈川へ就職する。
「あ~、はい。こちらこそ・・」
咄嗟のことで、俺は曖昧に答えてしまった。
「うふふ・・、こちらこそって、本当にいいのね」
俺の返答を耳にした千恵が、茶化しほくそ笑む。
「いや、いや、アハハ・・」
俺は笑って誤魔化す。
「もう、金ちゃんは・・」
彼女は、俺の二の腕を力一杯抓った。
「ア~ッ、痛いなぁ。参った、参ったよ」
仲の良い二人の様子に、祖母が嬉しそうに喜んだ。昼食を祖母の家で済ませ、日本海の海岸へ行く。
岩場に並んで腰掛け、陽に輝く海を眺めた。盆過ぎの日本海は波が荒い。時折、飛沫が高く舞い上がる。千恵が俺の腕に寄り添い、肩に頭を乗せた。
「金ちゃん・・、ありがとうね」
ポツリと呟く。
「ん? どうして?」
「だって、お祖母ちゃんが、あんなに喜んでいたから・・」
「ああ、そうだね。優しいお祖母ちゃんだ。羨ましいよ」
たわいない話で時間を過ごす。
「金ちゃん・・」
不意に肩から頭をもたげ、俺の心を読むように見詰める。
「なんだい?」
「金ちゃんのお嫁さんに、なりたいなぁ」
俺は驚き、千恵の瞳に目を合わせてしまった。