微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅨ
御堂は雑木林に逃げ込み、道祖神の穴へ入ることができた。
「さて、これからどうするか。私の家は無理だ。恐らく、ヤツらに囲まれているはずだ」
「これから、タクシーで大学へ行きましょう」
私は、福沢の提案を直感で受け入れる。大学の研究室は、邪鬼の嫌う工夫をしていたからだ。
「先生、研究室はあのままですか?」
「ええ、もう少し改良をしました。邪鬼は近寄れないでしょう」
「えっ、どんな部屋ですか?」
その話に、若月が興味津々に尋ねる。
「ヤツらに聞かれたら、大変です。実際に見れば分かりますよ」
なるべく明るい場所を選び、タクシー乗り場へ行く。乗り込む瞬間、数匹の邪鬼が襲った。若月の背広が引き裂かれる。ただ、背広には沈香が、たっぷり染み込ませてあった。
「グオウ~、・・・」
邪鬼は飛び退き、沈香の匂いに苦しがる。
「ブゥア~、ブゥア~」
悪臭の唾を吹きかけた。
「運転手さん、早く、早く、急ぎ発車して下さい」
急かされた運転手が、不思議な顔を見せた。彼には襲う邪鬼の姿が見えない。
「今晩はこれで助かったが、問題は明日の晩だと思う。絶対に襲ってくるはずだ」
「御堂さんは、間に合いますかね・・」
一時間後、東都大学の福沢准教授の研究室に着いた。若月が部屋の中を見渡す。
「特に変わった様子も無いけど・・」
「何も感じないですか? ハハ・・」
福沢が愉快に笑う。
「主任は、分かりますか?」
「ああ、もちろんだ。部屋には、窓が無いだろう」
「あっ、本当だ。何故ですか?」
邪鬼や悪霊を防ぐために、わざと窓を失くす。それに、壁も鉛の板で囲っている。所々に、ご朱印や赤札が張り付けてあった。
「これで、ヤツらに感知されない」