偽りの恋 ⅧⅩⅣ
俺は迷ったが、ストレートに喋る。
「千恵ちゃんも大人だ。だから、率直に言うね。佐藤さんの体当たりって、本当に体を投げ出すことじゃないよ」
千恵は感じたらしく、ポッと顔を赤らめた。
「君は・・、俺を信じて、自分をさらけ出した。辛い勇気だったろうね」
「・・・」
彼女はたじろぐことなく、身を縮め黙って聞く。
「俺だって、辛かった。少なからず、君に好意を持っていたから、悪い気分じゃなかったよ。でもね、夢を果たすために、もう恋はしないと決めたばかり。だから、懸命に目を瞑り、千恵ちゃんを頭から締め出した」
千恵が吐息を吐く。
「でも、一緒に時間を過ごすほど、君の存在感が増してしまった。俺の弱い脳が、君を欲する。君を胸に抱き、キッスも受け入れた」
俺の言葉を聞くほどに、千恵の体が揺れ動く。俺は手を差し伸べ、抱き締めたかった。
「ただ、一線を越えるだけは、許せなかった。あの人への気持ちが、俺の安易な行動を押し留める・・。ふ~ぅ・・」
千恵の姿を目の当たりにして、俺も思わずため息が出た。
「私も反省しているわ。自分でも破廉恥な行動に驚いた。でもね、金ちゃんだから、不思議に恥ずかしくなかった。思い出すと、体も心も熱くなってしまう・・」
「千恵ちゃん、男だったら女性の体を抱きたいと思う。当たり前のことだ。況してや、君の姿なら、誰でもおかしくなる。事実、俺の脳はパニック状態だった」
「え~、本当に? 凄く冷静で、やはり金ちゃんだな、と感心していたのに」
「いやいや、俺だって普通の男だよ。胸がときめいた。アハハ・・」
小悪魔の瞳が輝く。俺は不味いと気付いた。
「ま、ま、待てよ。言いたいことは分かる」
「何が分かるの? 金ちゃんは意気地なしよ」
「前の話に戻るけど、性欲の観念から恋に発展することは、俺は避けたいんだ」
俺は何を言い出したのだ。こんな若い女の子に、話す内容じゃないだろう。
「うふふ・・、金ちゃんが焦っている。面白いな~。ふふ・・」