偽りの恋 ⅣⅩⅠ
その後、海田に誘われ昼食を一緒にする。食事の間、千恵のことが気にり、海田の話に集中できない。
「なんだか、食が余り進まないようだね」
「いや~、そうでもないです」
そう言いながらも、オムライスをスプーンで穿るだけ。時たま、口に運ぶ。
「もうすぐ、帰る時間だよ」
「ええ、・・・」
半分も食べ終わっていない。俺は食べるのを諦めた。
「金ちゃん、どないしたんや? 食べなアカン。 後で腹へるやろ・・」
坂本が心配な顔で、テーブルにやって来た。
「あ~、坂本さん。ほんまに、ありがとうさん」
「あの、めちゃおもろい子やろ。惚れたんかい、どないやねん?」
痛いことを突かれ、俺はカチンとくる。
「そんなこと、あれへん! 俺のこと、かまんといてなぁ!」
「お~、怖。ほな、知らんわ・・」
坂本は、呆れた顔で他のテーブルに移った。
「あ~ぁ、面白くない」
俺はコップの冷や水を、一気に飲み干す。
「金ちゃんも、まだ若いなぁ~。ハハ・・・」
傍で聞いていた海田が、愉快そうに笑う。
「アハハ・・・、そうですよね。簡単にあしらえばいいのに、本気に考えるなんてバカバカしいや。フフ・・・」
笑ったお陰で、気が楽になった。
「坂本さ~ん! 申し訳ない」
大声で坂本に謝った。彼が振り向き、手を振る。
「怒っておれへ~んよ」
急に目の前のオムライスを食べ始めた。海田が呆気にとられた。
「なんだ、突然に食べ始めて・・」
「ええ、残すと勿体ないと、急に思ってしまった」
そこへ、竹沢たちが戻って来た。
「あれ、金ちゃん、今ごろ食事かい? 帰る時間だよ」
「ほんとだ、まだ食べているわ。何杯目のお代わり? 太った中年のおじさんになっちゃうよ」
千恵の挑戦的言葉に、俺はじろっと睨む。
「わ~、金ちゃんが睨んだ。怖い、助けて~ぇ」