微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅡ
その時、若月の携帯が鳴った。
「あ、夏帆さん。うん、家には行かないで欲しい。ちょっと待ってね」
様子を聞いていた私に代わる。
「大河内だけど、若月の話は本当だ。君に危険が及ぶ、だから絶対に近寄らないで・・」
彼女は半信半疑だが、ようやく納得してくれた。その後、若月はブツブツと話し続ける。
「さあ、出発しよう。詳しいことは、車の中で説明する」
助手の五人は不安そうな面持ちで、私と福沢の説明を聞く。
「とにかく、邪鬼の挑発な言葉に気を付け、冷静に行動をしてくれ」
ヤツらは容易く洞窟の中に入れない。だから、襲うとしたら洞窟の手前だろうと考えた。
「私が先頭で、後方を福沢准教授と助手の畠山君が歩く。他のみんなも周囲に気を配って欲しい。何かあれば、ただちに知らせる。いいね」
全員が頷いた。
「この、内臓はどんな時に、どの様に使うのですか?」
助手の一人渡瀬が質問した。
「これは、邪鬼が襲う瞬間に投げつける。ヤツらは臭いに反応して、内臓を奪い合う。食べている間に、その場から逃げることだ」
「わ、分かりました・・」
衝撃的な内容に驚き、助手通しで顔を見合わせる。
「鶏の血についても同じだ。邪鬼に浴びせれば、互いに食い荒らそう。だから、絶対に自分の身に付着させては、いけないよ」
私の言葉を想像して、彼らは生つばを飲み込んだ。
「なまじっかな気持ちで参加するなら、帰った方がいいよ。どうする?」
福沢が再度確認する。助手たちが、後ろの席で相談を始めた。
「私も、そう思うよ。帰るなら、高崎駅で下すけど・・」
相談が終わり、助手全員が参加に決意する。
「そうか、分かった。ほんの一時だけ頑張れば、千代さんたちが応援に来る」
失敗は許されない。彼らに危害があれば、私と福沢准教授の責任となる。