偽りの恋 ⅤⅩⅥ
目の前に曝け出された愛らしい体。目が奪われる清楚な下着姿だった。
「あら~、どうしたの? 丸裸と思ったの、残念でした。うふふ・・」
言葉を失った俺に、千恵は嘲笑う。
ずり落ちたバスタオルを拾い、ハンガーに掛けた。ボディー・シャンプーの香りが、俺の鼻腔を刺激する。
「うふふ・・、アハハ・・」
複雑に絡み合う欲望と安堵が、俺を笑わせた。
「ん? 何が、そんなに面白いの?」
奇策を講じた彼女が、俺の笑いに唖然とする。
「ハハ・・、千恵ちゃんの策に驚いただけさ・・」
「ふふ・・、だって、金ちゃんが私を見ようとしないからよ」
確かに、俺は千恵の顔を避けていた。あの瞳はギリシャ神話のメドゥーサの視線だ。誘惑され石と化し、思いのままに恋するだろう。
「浴びて直ぐなら、誰だって着ていないと思うよ」
千恵は一瞬俯いた。パッと顔を上げると、俺の瞳を捕獲する。
「分かった。じゃぁ、やり直すわ」
突然に、下着に手を掛ける。俺は飛び上り、千恵の腕を掴む。
「ま、待てよ。そんなつもりじゃない」
千恵がまじまじと俺を見上げる。凄く愛しい小さな顔。俺の心臓が高鳴る。
「私をふしだらな女と思い、バカにしているのね・・」
「・・・」
遣る瀬無い思いに心が疼く。決して、嫌いじゃない。むしろ、俺の脳も心臓も千恵にメロメロだった。
「いいわ。私独りで行くから・・」
俺の手を強引に振り払う。俺は慰めるつもりで、千恵を抱きしめてしまった。
「あぁ、俺が悪かった。ごめんよ」
「もう、金ちゃんのバカ!」
千恵は俺の胸に泣きながら縋りつく。