ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅦⅩⅢ 

 弥彦の内容が分かっていれば、同じ新幹線に乗って行けたのに。どこかで、歯車が狂った。工場へ連れて行かない方法を、考えるべきだった。 「金ちゃん、いつまで寝ているんだ」  同室の佐川に起こされる。昨晩は心身共に疲れ、いつの間にか熟睡したようだ。夢の中に千恵が映し出される。だが、肝心なところで途切れた。 「早く行かないと、朝食が無くなるよ」 「あっ、そうか。あ~、腹が減った」  俺は洗面し、急いで食…

   偽りの恋 ⅦⅩⅡ 

 俺は理解に苦しむ。 「金ちゃんらしい、言い回しね。うふふ・・」 「家に帰ったら、突然に電話だよ。意味が分からず、駅まで迎えに入ったけど・・」  佐藤の説明によると、数日前に千恵から相談を受ける。祖母からお盆に帰るよう勧められ、帰りたくないと悩んでいた。 「千恵ちゃん・・。お祖母ちゃんのことは、とても心配してた。でも、帰る勇気がなかったの。故郷に、嫌な経験があってね」 「え、嫌な経験?」 「そう…

   偽りの恋 ⅦⅩⅠ 

 彼女は、鷹揚に構え、唇を差し出す。 「ムードの無いキッスなんて、なんか変だよ」 「これで、いいの。外国なら、日常茶飯事でしょう」 「あ~、それは挨拶のキッスだ。ハグと同じさ・・。ムム・・」  千恵の唇が、強引に俺の口を塞いだ。俺の脳が、簡単に受け入れる。既に挨拶のキッスではなく、恋のキッスに変わりつつある。 「ん?」  駅前のロータリに、一台のタクシーが入って来た。 「ま、待って・・。タクシー…

   偽りの恋 ⅦⅩ 

 俺は答えることができない。口をパクパクと動かし、肺に酸素を送り込む。過呼吸に陥りそうだ。俺は天を仰ぐ。 「金ちゃん、大丈夫なの?」  千恵が俺の顔を覗き、小さな手で頬を擦る。なんて、優しく滑らかな手の感触、俺の脳が宙を回る。 「これが・・、天国へ誘う・・、天使の手・・、なのか?」  我知らず、余計なことを呟いた。 「うふふ・・、天国? ふふ・・、私の手が? もう、胸がキュ~ンとなっちゃう」  …

   偽りの恋 ⅥⅩⅨ 

 電車の単純な揺れに、疲れが眠気を誘う。千恵から健やかな寝息が聞こえる。俺も疲れていたが、この二日間を思い浮かべ脳がフル回転。千恵の予想外の振る舞いに、翻弄され続けた。思わせぶりの仕草に、心をときめかせ困惑する。俺は大きな溜め息を吐いた。 「ん、どうしたの?」  俺の動作を感じた彼女が、目を覚ました。 「いや、何も。ただ、疲れただけだ・・」 「私の所為でしょう? 後で、慰めてあげるね」  俺の耳…

   偽りの恋 ⅥⅩⅧ 

 こんな可愛い天使のような小悪魔に呆れる。どう対処すれば良いのか、俺は考え倦む。 「なによ、固まって。本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだから・・」  唇を離し、恨めしく言った。 「ああ、嬉しいさ。でもね、素直になれないよ、小悪魔ちゃん!」 「えっ、なんで小悪魔なの?」  思わぬ言葉に、千恵が驚く。その驚きの仕草が、天使に変貌し俺を魅了する 「いや、いや、麗しい天使だった」 「もう、呆れた。変よ…

   偽りの恋 ⅥⅩⅦ 

 彷徨う俺の脳は、ハムレットの心境だ。恋か夢か、どちらを選ぶ。千恵に会うまでは、夢を現実に選んでいただろう。だが、彼女が目の前に現れ、俺の現実を夢から恋に浸食させよう試みている。 「千恵ちゃん、俺の脳が惑乱してる。困ったね」  俺の瞳を縛り付けたまま、鼻先をピンピンと弾き笑顔を見せた。 「と、言うことは、断れないのね? ふふ・・」 「ああ、確かにそうだ」  隠せない心情を打ち明けてしまった。 「…

   偽りの恋 ⅥⅩⅥ 

 気まずい思いで帰りの支度をする。千恵は無言のまま、事務所の椅子に座っていた。 時間を確認すると、夕刻の六時を過ぎていた。 「準備は、できたかな?」 「・・・」  相変わらず、俯いて反応しない。俺は千恵の前にしゃがみ、下から覗いた。 「いい加減に、許してくれよ。もう、あんなことは絶対にやらないから」  俺は手を合わせ、拝む仕草をする。すると、上目で俺を見た。 「金ちゃんの大バカさん!」  か細い…

   偽りの恋 ⅥⅩⅤ 

 高崎に戻り、車を返した。俺はシャワーを浴びて着替える。 「千恵ちゃんもシャワーを浴びなよ。俺は事務所にいるからね」 「うん、分かった・・」  千恵は不満のようだけど、仕方なく浴びる。待つこと半時ほどで、千恵が事務所に現れた。ミニのノー・スリーブのワンピース姿だ。浅黄色の服装に、同色の清楚なネックレス。突然の大人びた印象に、俺は呆気にとられる。 「うふふ・・、金ちゃんが、私に見惚れるなんて素敵ね…

   偽りの恋 ⅥⅩⅣ 

 目を閉じても、千恵の顔が瞼に残る。あの祖母の顔が、優しく微笑んだ。俺はどうすれば・・。自分の安易な行動が招いた結果である。 「うん、ちょっと考えさせてくれ」 「本当に?」 「ああ、本当だ。だけど、う~ん・・」  千恵の顔が一瞬明るさを取り戻すも、俺のあやふやな反応に再び顔を曇らす。 「ふ~ぅ。苦しい・・なぁ」  彼女がため息を吐く。 「千恵ちゃん・・、ごめんな。俺も苦しいよ」  鼻を弾き、ニコ…