ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2017年7月のブログ記事

  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅱ

    「待って、紗理奈さん待って!」 《時間がないって、どうしてなんだろう?》  私は後を追いかけた。岬の上に来たが、彼女の姿が見当たらない。古くこぢんまりしたお堂が建っているだけだ。反対側の道に降りた気配がない。 《これは、どういうことだ。確かにこの岬へ上がったはずだが・・》  しかたなく、私は浜辺に... 続きをみる

  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅰ

     真夏の青い海原と白い砂浜。海辺の心地よい潮鳴りに耳を済ませ、寡黙なふたりは手を繋ぎ歩いた。時折、数羽の海猫が煩わしく鳴き騒ぐ。波際の砂浜には、独りの足跡だけが残っている。砂浜の先に小高い岬が海へ突き出ていた。ふたりはゆったりと登る。岬の上は爽やかな風が吹き、ふたりを先端へ誘う。  ふたりが出会っ... 続きをみる

  • 雨宿り  完

    【最後の手紙を美佐江さんに捧げる。  私は、これからお国のために戦地へ行きます。決して戻れるとは思っていません。  あの雨の夜に、初めて貴女にお会いできたことは、偶然ではなく運命であると信じて  います。この世に生まれ、初めて経験する異性への思慕。これほど素晴らしい感情を、私に芽生えさせたのは貴女... 続きをみる

  • 雨宿り  Ⅴ

     窓から心地よい風が吹き込む。ソファに寛ぎテレビを見ていたが、睡魔に襲われ瞼が重くなってきた。  誰かが私を呼ぶ。その声に反応して、私は目を開けた。目の前に和服姿の美佐江が立っているではないか。何故、彼女がここにいる。私は愕然として目を瞬き、彼女を見詰めてしまった。 「えっ?」 「あなたが、新之丞... 続きをみる

  • 雨宿り  Ⅳ

    「さて、ここからが問題なんじゃ。それで・・」  祖父は中庭に目を置き、真剣な眼差しで何かを見詰める。私は近くにある冷水器からお茶を汲み、祖父の横のテーブルにコップを置いた。祖父は一口飲み、喉の渇きを潤すと再び語り始めた。  敗戦の翳りが感じられる頃、新之丞が学徒出兵に召集された。祖父は工学部のため... 続きをみる

  • 雨宿り  Ⅲ

     寝汗で下着がびっしょりだった。シャワーを浴び気持ちがさっぱりする。 《あの名前は誰だろうか。腑に落ちない。オヤジに聞けば分かるかもしれないなぁ》  その日の夜、仕事から帰るとオヤジに電話した。 「オヤジさん、元気かい?」 「どうした、お前から電話が来るなんて珍しいじゃないか? まあ、こっちはふた... 続きをみる

  • 雨宿り  Ⅱ

     私はベッドから起き上がらず、そのまま横になり夢の中の状況を考えた。 《やはり現れた。ただ、場所が違う。それに和服姿ではなかった。どういうことだ。このまま毎晩、彼女と会うのだろうか》  幾人かの知り合いに相談する。 「そんなの夢占いで調べてもらえば・・」 「お祓いした方がいいんじゃないの」 「誰か... 続きをみる

  • 雨宿り  Ⅰ

     日常で見る夢は、自分本位の希望や憧れなどの空想に過ぎない。儚く散ることが多々あるも、自分の意志によって実現する可能性も否定できない。  眠りの中で見る夢は、決して自由にはならない。意外な展開に現実の感覚が痺れ、あらゆる感情をその世界へ誘惑する。ただ、必ずしも結尾に至るとは限らない。目覚めて安堵す... 続きをみる

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  • 無題  完

     映写会は雨のために延期になってしまった。しかたなく、本部で見ることになる。フイルムの音だけが聞こえ、全員がボーッと画面を見詰める。 「どうして、喋らないんだ」  勇ちゃんが、オレ達に言った。映写会ではアドリブでやるはずだったが、四人は延期になったために気持ちが落ち込んでしまった。 「うん、最初か... 続きをみる

  •  ア・ブルー・ティアーズ (蒼き雫) 完

     寒い季節も終わりに近づき、春めく日曜日の朝。 「これから渋川に行くけど、一緒にどうだ?」  当直明けの病院から戻ると、妻を誘った。私が突然に言い出したので、八重子は戸惑いを見せた。その様子に笑いを堪える。おそらく行くのを拒むだろう。 「どうしたの急に? だめよ、子供たちが遊びに来るのよ」 「じゃ... 続きをみる

  • ア・ブルー・ティアーズ (蒼き雫)Ⅳ

     穏やかな元旦の朝を迎えた。全日本実業団駅伝の報道用ヘリコプターのプロペラが、澄みきった空気を切り裂き忙しなく飛んでいる。私は妻の八重子と初詣に高崎観音へ出かけた。ブラジルから帰国して二十五年になるが、高崎観音に毎年欠かさずに参詣している。時折、八重子が他の寺社へ誘うこともあるが、私は頑なに譲らな... 続きをみる

  • 疑 ? ?

     これは小説ではありません。突然に疑問が湧き書きたくなった。これも?  この世の中は疑問だらけだ。暑ければ? 寒ければ? 雨が降らなければ? 降れば? 生きることも、死ぬことも? 疑問は不思議な感情だ。その感情を持つ人間は不思議な生き物だ。人間ってなんだ? 考える葦? 本当か? 信じられん。腹が空... 続きをみる

  • ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅲ 

     クリスマスのイルミネーションが町の至る場所に飾られ、彩りの風景が行き交う人々の心を楽しませる。病院でも各階のナース・センター前に、小さなツリーが置かれ患者の目を和ませた。  巡回の折、いつも気にかけている佐藤の様子をナース・センターの画面から眺めている。白く冷たい壁に囲まれ何もない天井を見つめる... 続きをみる

  • 無題  Ⅴ

     半世紀前の記憶を辿るのは簡単ではなかった。それも六十数年のたった一年間だけだ。ジグソーパズル全体のイメージは浮かぶのに、肝心な幾つかのピースが脳裏のどこにも見当たらない。大切な記憶のピースを当て嵌めることができず、思い出は蝕まれおぼろげにしか現れなかった。  一町ほどの通りを北に歩きながら、あち... 続きをみる

  • ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅱ

     白い雪に覆われた浅間山が陽に輝くほど良い天候であったが、澄んだ秋の空気に冬の冷気が流れ込む夕刻から、冷たい雨模様に変わった。雨は次第に強くなる。  夜十時過ぎに、救急隊から受け入れ要請の電話が入った。 「はい、F病院ですが」 「中央救急の狭山です。三十代の男性が側溝の中に転倒。呼びかけに反応が無... 続きをみる

  • ア・ブルー・ティアズ (蒼き雫) Ⅰ

     肌寒の雨模様の静かな夜。  市内の北部環状線に近い病院の待合ロビー。柱の時計が弱々しく九時を告げた。時間を持て余していた数人の患者が、ため息をつきながらゆっくりと病室に戻って行く。  事務所内にいた私は、パソコンの画面から目を離すとしばらく目を閉じた。両手で額を数回摩り、独り言を呟く。 「時計の... 続きをみる

  • 無題 Ⅰ

     人の記憶とは、不思議なものである。  消し去りたいと願う記憶はなかなか消えず、がむしゃらに振り返っても全く甦ることのない記憶もある。時として、爽やかな風がフッと脳裏を掠め、心を揺さぶる意地悪な記憶もある。  私の心肝に残る年少期の記憶が、生年六十五を過ぎた頃より日々霞みはじめた。老いた脳裏から散... 続きをみる

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  • 無題 Ⅳ

     朝からそぼ降る雨の日。  敏ちゃんが本部へ行こうと迎えに来た。ふたりは傘も差さずに走って本部へ行く。本部には、全員が集まっていた。思い思いに何かをしている。貴ちゃんと浩ちゃんがオレ達を見て集まると、映画製作の話に夢中になった。  そのとき、敏ちゃんが急に不快そうに顔をしかめ、キョロキョロと辺りを... 続きをみる

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  • 無題 Ⅲ

     カブスカウトの二泊三日の宿営キャンプで新潟の海へ行き、帰って来た翌日の朝。隣の家に住む幸雄ちゃんから本部に来るよう言われた。すぐに本部へ行くと、孝夫ちゃんがみんなのTシャツをめくって、肌の焼け具合を調べていた。 「輝ちゃんも見せて」  オレは、言われたとおりに背中を見せる。 「おっ! 輝ちゃんが... 続きをみる

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  • 無題 Ⅱ

    「仕方ないな、続きは外でやろう」  勇ちゃんが困った顔で、孝夫ちゃんに言った。 「じゃあ、そうしよう。四人はこっちに来てくれ」  外はやぶ蚊だらけで大変だ。オレ達は渋々集まった。敏ちゃんが自分の頬を平手で叩く。オレも左手の甲を刺されたので、ボリボリと掻いた。ほかの皆も叩いたり掻いたりで忙しい。 「... 続きをみる

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