ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年1月のブログ記事

  •    謂れ無き存在 ⅢⅩ 

    「何を騒いでいるの?」 「洸輝がお母さんって、呼べないらしいの。お母さんは、なんて呼ばれたい?」 「え~、そうね。明恵さんでもいいわ」  真美の瞳が輝く。俺は嫌な予感がした。 「それなら、明恵母さんと呼んだら・・、どうかしら?」 「まあ! 真美らしい発想ね。私は、それでいいわよ」 「それで決まりね... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅨ 

    「今日は、夕飯までいなさい。洸輝君は、主人と仕事の話があるでしょうから・・。真美は私の手伝いをしてね?」 「もちろん、喜んでするわ。料理をたくさん教えてね、お母さん?」  ふたりは腕を絡ませ、楽しい雰囲気でキッチンへ行く。俺だって、甘えたい気分だった。 《自分の性格に、もどかしく情けない思いだ。屈... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅧ 

    「子供を嫌う母親なんていないはず。あなたの幸せを考え、已む無い気持ちで施設へ預けたと思うわ。私が知るあなたのお母さんは、洸輝君と同じに心が優しかった」 《俺は信じない。絶対に信じない。二十五年間も音沙汰が無いじゃないか。たった一度も顔を見せていない。どんなに苦しい生活をしていようが、嫌いでなければ... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅦ 

    「真美、これは俺だけの問題じゃない。俺と一緒にやろう」  彼女は俺の気持ちを理解する。ふたりで他のロウソクを灯す。新しい家族四人は、灯されたロウソクを見詰めた。 「さあ、みんなで一緒に消してから、ケーキ―を食べましょう」  真美が音頭を取って、一斉に息を吹きかける。消えたロウソクから、四本の煙が立... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅥ 

    「それで、いつからお店に来れるかな?」 「明日の朝、バイト先に辞める連絡をして、早めに行けると思いますが」 「そう、分かった。仕事の内容や給料などの話は、その時にするね」 「はい、宜しくお願いします」  座ったまま頭を下げた。本当に働けるんだと思うと、喜びに心が揺れる。 「良かったね、洸輝。しっか... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅤ 

    「さて、洸輝君の率直な意見を聞こう。どうかな?」  俺の心は彷徨っている。家族の絆が意図する意味を、漠然と理解するも不自然さを感じた。 《家族なんて、なんだ。絆の結び目が解ければ、簡単にバラバラだ。二十数年間、誰も手を差し伸べない》 「ん? 俺には、自分の存在自体が理解できないんだ。何を目的に生ま... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅣ 

     突然に箸を置いた真美が、奥さんの顔を直視する。 「私たちを子供にして・・、お願い」  真美の言葉に、三人の箸が止まる。 「さっき、料理の手伝いをしながら、これが親子なんだろうなぁ、と思ったわ。楽しく幸せな雰囲気に憧れを感じたの」  俺の脳は、真美の言葉に揺さぶられた。 「ええ、私は構わない。あな... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅢ 

     俺にとって、家族の絆はゼロだ。求めることもできない。親の顔や性格も知らない。もし、知る機会があっても、俺は断るつもりだ。今更知って、なんの意味も無い。ただ、混迷するだけで、なんの得にもならない。 「先生、家族の絆が運命であれば、絆の無い俺の運命は、どの様に考えればいいのですか?」 「いや、良く考... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅡ 

    「私と洸輝の運命は、どうなの? 約束があったから、ママが夢に現れたのでは・・」  真美は夢に現れた母親が、あの講義に参加を勧めたと思っている。 《俺は、自分の過去を知り、自暴自棄に陥っている。このまま生きても、碌な人生が有る訳ない。道に迷い、左右どちらを選んでも結果は同じだ。悪いに決まっているよ》... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅡⅩⅠ 

    「ふふ・・、あなたたちのお母さんは、私の友達なの。高校の同級生で、三年間とても仲良しだったわ」  笑顔だった表情が、愁いに変わり俺たちを見詰める。 「卒業後、しばらくの間は親しく連絡を取っていたけど・・。徐々に其々の道を歩み、連絡が取れなくなったの。風の便りで、元気に過ごしていることは知っていたわ... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅡⅩ 

     朝食を済ませ、早めに家を出た。今日の真美の運転は、昨日よりリッラクスしている。俺は落ち着いて座ることができた。講師の家まで、他愛ない会話をする。箕郷から下り、高崎市街地に戻る。国道17号に出て烏川沿いを走り、和田橋を渡って護国神社の近くにやって来た。  説明通りに左折する。直ぐに探すことができた... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅨ 

     目覚めると、真美は既に起きていた。キッチンからカタコトと音が聞こえる。顔を覗かせると、直ぐに気付き笑顔で挨拶してきた。 「おはよう、朝食の支度ができたから、早く顔を洗ってね」 「やあ、おはよう・・」 「着替えを、ベッドの横に用意してあるわ」 「えっ、着替え?」  俺は、急いで顔を洗い、寝室へ行く... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅧ 

     確かに真美の意見は、正しいと思う。余計な詮索は必要ない。 「そうだね。俺は愛に飢えていた時期もあった。でも、大人になるにつれ、愛に不信感を抱き、求めないことにした。だって、いくら求めても、結果的に虚しくなるだけだ」 「私も虚しく悲しい時間を過ごしたわ。誰も傍に居なくて、幸せを感じなかった。とても... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅦ 

     秋の夜は冷える。真美に上掛け布団を掛け、俺も横になった。真美が甘えるように寄り添う。芳しい香りが俺の肺を満たす。 「明日、先生に何を聞くつもりだい?」 「うん、夢のこと・・。できれば、夢に現れる人が誰なのか、知りたいの」  間近で話す真美の息が、俺の顔に温かく触れる。果たして、俺の息は大丈夫だろ... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅥ 

     俺は彼女の手を取ると、諭すように話し始める。 「真美、いいかな?」 「な~にぃ? そんな怖い顔をして」 「真面目な話だから、最後まで聞いてね」 「・・・」 「セミナーから始まったふたりの出会い。あっという間に、親密な関係になってしまったね。事実、ゆっくりと考える時間さえ無く、戸惑いを感じ先々のこ... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅤ 

    《はい、はい、仕方ないか・・》 「はい、持って来たよ」  俺はできる限り目を逸らし、バス・タオルを渡す。浴室のガラス戸が開き、真美の腕が現れた。俺は咄嗟に目を瞑る。湯気に絡んで、爽やかなボディ・ソープの香りが漂った。 「ありがとう・・」 「いいや、べつに・・」  俺は居間へ引き返す際に、ガラス戸越... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅩⅣ 

    「ううん、誰からも。ただ、何故か記憶に残ってるの」 「多分、お母さんが、子守唄で歌ってたかも知れないね」 「そうかもね・・」  真美が紅茶を運び、洒落たガラス張りのローテーブルに置く。そして、俺の横に座り、体をぴたりと寄せた。真美の熱い体温が俺の体に侵略を試みる。俺の軽い脳は、彼女の熱い息遣いに反... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅢ 

    「今、連絡してみたら、早い方がいいわよ」 「そうだね、電話してみるか」  携帯を取り出し、渡されたメモの番号に掛ける。 「もしもし・・」 「いつ電話してくるかと、待っていましたよ」  俺からの電話が、必ず掛かって来ると分かっていたようだ。 「あっ、はい・・」 「ところで、傍に居るのは真美さんでしょ... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅩⅡ 

     真美は俺の顔を見詰めたまま、黙って聞いている。 《今までの俺は、負け犬なんだ。実際は強くない。空威張りしているだけさ・・》 「真美を撥ねつける勇気が無い。直ぐに受け入れたい。でも、でも・・。俺は君のことを、なんにも分かっちゃいない。歳だって知らないんだよ」  真美の瞳が輝くのを感じた。 「分かっ... 続きをみる

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