ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅧⅩⅢ 

 千恵と恋をするなら、きちんとスタート・ラインを発とう。彼女を悲しませてはいけない。俺はそう考えた。 「千恵ちゃん・・。さっきさぁ・・、約束のこと、俺は言ったよね」 「うん、でも・・。内容を言ってないよ」  恐らく、困惑するだろう。もしかしたら、嘆き、泣きわめくかも。 「しばらく、会わない。それが、約束だよ」  千恵の鋭い眼差しに、俺はたじろぐ。 「嫌いだから、じゃないよ。千恵ちゃんと、本当の恋…

   偽りの恋 ⅧⅩⅡ 

 もう、隠す必要はないと判断し、千恵にあの人のことを話す。 「その人は、素敵な人?」 「うん、素敵な人だった」  千恵の瞳が揺らいでいる。懸命に想像しているようだ。 「私と比べたら・・」 「比べることじゃないよ。人それぞれに個性がある。素敵の意味も異なるからね」 「ふ~ん。でも、金ちゃんが素敵に思った理由を教えて?」  あの人の素敵な理由? 言葉に表せない。心の感覚かな? 「ねえ、隠すこと無いじ…

   偽りの恋 ⅧⅩⅠ 

「まだ、学校が終わっていない。それに研修もあり、どこへ行けるか分からないんだ」  千恵は視線を外すことなく、俺の言葉を聞いている。 「だから、結婚なんて考えられない。千恵ちゃんも若いしね・・」 「9月で、19になるわ。待っていたら、おばさんになっちゃう」 「あはは・・、佐藤さんに聞かれたら、叱られるよ」 「そうか、うふふ・・」  俺は千恵の手を握り、再度ベンチに腰掛ける。 「それでね、時間が掛か…

   偽りの恋 ⅧⅩ 

 俺は驚き、目を見張る。 「そうなの。お祖母ちゃんから、いろんな国の話を聞かされたわ。だから、小さい頃からの夢だった」 「お祖母ちゃんが、何故?」  千恵の説明によると、祖母も外国の生活に憧れていたという。実際に、祖父と一緒にヨーロッパや北中米へ観光旅行した。 「だから、外国に住めたらいいねって、いつも話していたの」  俺の考えが、さらに前向きになった。 「じゃ、千恵ちゃんは外国に住むこと、問題…

   偽りの恋 ⅦⅩⅨ 

「千恵ちゃん、俺は正直に話すから、良く考えてね」  彼女の体が不安で固まる。 「そんなに、緊張する必要はないよ」  肩を軽く摩る。 「うん、分かった・・」 「人を好きになること、決して悪いことじゃない。俺はたくさんの人を好きになった。残念だけど、嫌う人もいたし、嫌われもした」  何を説明しようと、しているんだ。千恵も、首を傾げ理解に苦労している様子だ。 「あっ、ごめんな。何を話すか、忘れちゃった…

   偽りの恋 ⅦⅩⅧ 

 翌々日の夕食後、千恵から連絡が来た。 「金ちゃん、元気!」  すごく元気な声が、携帯から響く。 「ああ、元気だよ。もう少し、声を低く・・」  幸いに、談話室には誰もいなかった。ただ、誰かに聞こえたら、大変だ。 「分かった・・。それからね、もう仕事しているからね」 「そうか、良かった。それで、今日は?」 「・・・」  ほんの間、会話が途切れた。何かを話したいようだ。 「どうしたの? 言いたいこと…

   偽りの恋 ⅦⅩⅦ 

 佐藤が意味ありげに微笑んだ。 「何が面白い? 俺にとって、深刻なことだよ」 「あ、ごめん。面白いとは、思っていないわ。ただ、・・」 「ただ、って・・、なんだよ?」  不愉快になり、つっけんどんな言い方をした。 「ただ、千恵ちゃんを軽々しく考えていないと、分かったから。安心して、つい微笑んでしまったの。それが、何故いけないのよ? 可笑しな、金ちゃん」  何故不愉快なのか、俺にも分からない。 「ま…

   偽りの恋 ⅦⅩⅥ 

 俺の考え方は一方的なのかもしれない。この先、どんな障壁が待ち構えているか、想像もつかない。でもな、一番の問題は恋愛だろう。 「ねえ、金ちゃん。あの子の行動を、どう思ったの?」 「うん、積極的だった。本音で言えば、体で誘うことが恋愛と思っているように感じた」  これが現代風の恋愛なのであろう。いじらしい恋。淡い恋。密やかな恋。俺の考えが古風なのかもしれない。 「千恵ちゃんは、本当の恋心を知らない…

   偽りの恋 ⅦⅩⅤ 

 彼女なら理解すると思い、洗いざらい話すことにした。 「佐藤さん・・、今回のこと全て話すよ。ハッキリ言って、悩んでいるんだ」 「ええ、千恵ちゃんからも告白されたわ。あなたに抱かれ、キッスもしたそうね」  やはりな、あの子らしい。 「そのことで、どう思った?」 「う~ん、いろいろ考え、妬みも感じたわ」  佐藤の表情に、話すことを躊躇い決心が揺らぐ。 「そうだろうな~。ん~、困った」 「困ること無い…

   偽りの恋 ⅦⅩⅣ 

 それからの数日は、何故か苛立ち落ち着かない。千恵から音沙汰が無く、俺の脳は完全に支配された。残暑と千恵の思いが、俺を焼き焦がす。  ほぼ一週間後、佐藤から呼び出される。 「今晩は、まだ暑いわね。元気だった?」 「うん、まあね。ところで、今日はなんの話かな?」  昼間より幾分暑さが和らぐも、未だに蒸し暑く気分が優れない。団扇でバタバタとあおぎ続ける。 「千恵ちゃんから、事細かく聞いたわ。時折、べ…