ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年4月のブログ記事

  •    偽りの恋 Ⅸ  

    「これじゃぁ、座れそうもないね」 「私は、大丈夫よ」  各駅停車は辛い。停まるたびに、乗客が増える。終点の新宿駅近になると、身動きができない。俺と佐藤は密着したままだ。彼女の顔が、赤く火照る。 「もう直ぐ着くけど、我慢できるかな?」 「ええ、平気。金ちゃんは?」 「ああ、問題無いけど、妄想の中にい... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅷ 

     俺は返事を保留にする。彼は納得せず、気分を損ねたようだ。 「約束、でけへんのかい。金ちゃんは、へたれやな~」 「えっ? 屁をたれた? 俺が、そんなことするかい!」  坂本は、目を丸くして驚く。 「よう言うわ。ちゃうよ、へたれは根性無しの意味や・・」  俺は意味が分かり、笑ってしまった。 「アハハ... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅶ 

     正直に話すべきだろうか、俺は悩む。知り合ったばかりの人に、話すことでもないと考えた。 「いや、いないよ。恋なんて、ほとんどが片思いだろう。それに似た恋は、したことがあるけど」  佐藤は、顔色を窺う目で俺を見ている。 「そうかしら・・」 「ああ、そうだよ」  俺は、彼女の顔を直視する。瞳には、戸惑... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅵ 

     今日は休日なので、寮の食事は朝食だけ。昼と夜は各自で考える決まりだ。  四人は、公園の近くにある小さな洋食のレストランに入った。時間的に、店の中は空いていた。坂本の案で、別々のテーブルに座る。 「ここのオムライスが美味しいの、私はそれにするわ」  佐藤が勧める。 「うん、俺もそれにするよ」  若... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅴ 

     空は快晴だった。池の水面に爽やかな風が吹く。ただ、日差しは暑い。ボートが横に揺れると、佐藤は顔をしかめる。 「揺れるのが、怖いんだ?」 「ええ、怖いわ。だって、泳げないんだもん」  一瞬、俺の心に邪気が過る。遊び心で、ボートを揺すろうと考えた。 「そっか、でも転覆したら、俺が助けるよ」 「いいえ... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅳ 

     坂本が現れると、互いに名前を伝えた。 「ほな、金ちゃん行こうか~」 「えっ、どこへ?」  女の子が案内する近くの池らしい。そこは、歩いて行ける場所だ。 「金ちゃん、右の子は自分に任せるからな」  寮生活を始めて直ぐに、俺の名前を金ちゃんと呼ばれるようになった。誰が最初に呼んだのか、俺にも分からな... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅲ 

     夕食が終わっても、誰一人席を外す者はいなかった。この機会に、ぎこちない態度や話し方も薄れ、全員が打ち解ける。歳の差や境遇も関係ない寮の仲間になった。  ただ、それぞれの過去や価値観に対し、決して侵害しない暗黙の了解を俺は感じた。 《海外に生活を求めるには、それなりに理由が有るはずだ。その点、俺は... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅱ 

     入学式が終わり、学校の敷地内にある寄宿舎に戻った。二人部屋の同居者は、四国宇和島出身の佐川であった。俺より三歳年上である。二段ベッドが置かれ、佐川が先に上を選んだ。俺も上を望んでいたが、年下の俺は諦めるしかなかった。  同期生は二十人。二十二歳の俺が一番年下で、早稲田工学部出身の海田が二十七歳の... 続きをみる

  •    偽りの恋 Ⅰ 

     人の生き方が違うように、恋も人それぞれに異なる。  恋は甘くほろ苦い。胸が締め付けられ、切ない思いをするものだ。  常に相手の心に切々と迫る。時には、思わぬ相手から切望される。  恋は純粋な心の動き。多々ある恋から粛清されぬものが、愛を成就できる。  だから、恋は神が与えた人間特有の悟性。  た... 続きをみる

  •    謂れ無き存在 ⅧⅩⅡ 

     真美と同じく、明恵母さんもオヤジさんの考えを、読み取ってしまう。 「だから、明恵が近くにいるときは、余計なことを考えない」 「そうか、俺も注意しよう・・」  真美が嬉しそうに反応した。俺は背中に寒気を感じる。 「ダ~リン! 残念ね。私は、遠くでも感じるのよ」 「えっ、嘘だろう・・」 「洸輝さん、... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅧⅩⅠ 

    「確か、前に話したよね。仲の良い三人が、それぞれの子供を結婚させる話さ」 「ええ、聞きました。覚えています」  しかし、三人の選んだ道は、決してまっすぐな道ではなかった。ただ独り残った明恵母さんが、諦めかけていた約束を果たすことになる。それは、俺と真美の母親が、書き残した明恵母さん宛の手紙に関連し... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅧⅩ 

     駐車場に車を停め、公園の敷地内に入る。林に囲まれ人影が少なく、俺が想像した以上に静かな公園であった。  公園の中心に大きな池があり、その脇に日本風の小屋が見えた。 「お母さん、あれが東屋よ」 「へえ~、本格的で、凄いわね」 「トーマス小父さんも、ボランテアしたそうよ。職人さんの技能が直接に見られ... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅨ 

    「はい、読んでみます。それに、欲しいものは、自分で買います」 「なに言ってんの、洸輝にはお金が無いでしょう」  真美が、意地悪そうに言う。でも、直ぐにウインクした。 「はい、はい、奥様。どうぞ、買ってください」  俺は丁寧に頭を下げて、お願いする。真美が笑顔で頷いた。 「あっ、詩もいいかもしれない... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅧ 

     テーブルの上は、瞬時に皿の山と化した。  食後、男性三人はコーヒーを飲む。真美と明恵母さんは、デザートのフルーツ・パフェを食べている。 「ところで、オヤジさんは神学校へ通ったけど、どうして?」  俺は、気になっていた。 「ああ、運命と宗教は非常に関連している。それを学びたくてね。運命や宿命は人間... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅦ 

     牧師のオヤジさんから問われるまま、ふたりは素直に答えた。 「それでは、指輪の交換をして下さい」  俺は一瞬固まる。 《しまった。指輪を用意していなかった。え~、どうしよう》 「トーマスオジサン、リング プリーズ!」 「オッケイ メッチェン」  後ろに控えていたトマース小父さんが、小箱を取り出した... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅥ 

     深まる秋の風に吹かれ、五人の思いが空へ舞う。トーマス小父さんも何かを呟き、胸の前で十字を切った。瞳に涙を浮かべている。 《トーマス小父さんって、優しい人なんだな。俺は好きになった》 「洸輝、ありがとう。彼も、あなたが好きだって思っているわ」 「そうか、もっと話せるといいね。頑張って、英語を覚えな... 続きをみる

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  •    謂れ無き存在 ⅦⅩⅤ 

     車は市街地を出ると、幹線道路を走った。しばらくして、脇道にそれる。細い林道は、まるで紅葉のトンネルだった。 「凄いロマンチックな景色ね。あなたたちにぴったりよ」  明恵母さんがうっとりと眺め、隣に座る真美に呟いた。  トンネルをくぐり抜けると、前方の視界が広がった。そこは、広大な墓地である。片隅... 続きをみる

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