ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年6月のブログ記事

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅣ 

     目を閉じても、千恵の顔が瞼に残る。あの祖母の顔が、優しく微笑んだ。俺はどうすれば・・。自分の安易な行動が招いた結果である。 「うん、ちょっと考えさせてくれ」 「本当に?」 「ああ、本当だ。だけど、う~ん・・」  千恵の顔が一瞬明るさを取り戻すも、俺のあやふやな反応に再び顔を曇らす。 「ふ~ぅ。苦... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅥⅩⅢ 

     谷川の名水冷やしラーメンを注文。二人は一時休戦状態。俺はゆっくり味わった。ガラス越しに望める谷川岳の緑に囲まれ、気分が穏やかになる。先に食べ終わった俺は、何気なく千恵の食べる様子を見ていた。 「ねえ、・・・」  千恵の足が、俺の脛を小突く。 「ん? 何が言いたい?」  警戒することなく、ぼんやり... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅡ 

     千恵の手を握り、車に引き返す。車を戻すため、夕刻までに帰る必要があった。北陸道から長岡JCTで関越高速に入る。関越トンネルを越えた最初のパーキング・エリアで昼食にした。 「さあ、昼でも食べよう。早く降りて・・」  あれから、ずーっと千恵は言葉を交わさない。俺は運転しながら、千恵のことを考えていた... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩⅠ 

     千恵の瞳が眩しい。涙にキラリと光る。 「あぁ、・・・」  答える言葉が見つからず、俺の意識が脳内を彷徨う。 「金ちゃん、嫌なの?」  間近に迫るピンクの蕾。すーっと俺の唇に触れた。俺の意識は彷徨うのを忘れ、煩悩の誘いに頷いてしまった。  俺の左手が千恵を引き寄せ、しっかりと抱きしめてしまった。 ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅥⅩ 

     新潟弥彦の旅は、千恵のことを思い恋人らしく振る舞う。祖母の家や弥彦神社参拝は、楽しい思い出となった。 「あの子は不憫な孫なんよ、だから頼みますね」  千恵の祖母が、彼女の生い立ちを打ち明ける。幼き時期に母が病死、父が再婚すると疎まれる存在となった。母の実家に預けられ、高校卒業と同時に神奈川へ就職... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅨ 

     どうにか出発できた。早く高崎から離れることが、最善だと思う。関越高速に入ると、疎らな交通量に緊張が緩む。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「うん、なんだい?」 「まだ答えていないよ」  俺は忘れていたことを思い出す。体が強張り、ハンドルを握る手に力が入った。 「あ~ぁ、そうか。忘れていた」  前方に目を... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅧ  

     千恵が首に腕を回し、激しく体を寄せる。決壊した二人の煩悩は、危険な状態になった。俺の手が、彼女の体を弄ぶ。千恵が切ない声を出した。  その時、事務所の電話が大きく鳴った。その音に、俺の体が敏感に危険を察し、千恵の体を引き離す。 「千恵ちゃん、ごめん・・」 「あ~、なんで? こんな時に、電話が・・... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅦ 

     小さな肩が小刻みに震えた。俺は抱き締め、彼女の背中を擦る。しっとりした肌に、俺の手は惑わされた。 「ねぇ、金ちゃん・・」 「ん、なんだい?」 「金ちゃんは、女性を抱いたことがあるのね?」  若く初心な肌に俺の手が停まる。 「・・・」  どう答えれば良いのか、俺の脳が窮する。 「な~ぜ~、黙って~... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅥ 

     目の前に曝け出された愛らしい体。目が奪われる清楚な下着姿だった。 「あら~、どうしたの? 丸裸と思ったの、残念でした。うふふ・・」  言葉を失った俺に、千恵は嘲笑う。  ずり落ちたバスタオルを拾い、ハンガーに掛けた。ボディー・シャンプーの香りが、俺の鼻腔を刺激する。 「うふふ・・、アハハ・・」 ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅤ 

     曇りガラスの戸が閉まる。衣擦れの音が、外で待つ俺の耳に聞こえてきた。俺は気まずさに、後ろへ振り向く。壁に寄りかかり、目を閉じ黙想する。 「金ちゃん! そこにいるの?」 「ああ、居るから心配しなくていいよ・・」  不意に、ガラス戸が開き、俺の心臓がドカンと撥ねる。見る必要の無い後ろを、顧みてしまっ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅣ 

    「そ、それ、それは困るよ。夢を求めると、俺は誓ったんだ」 「誰に誓ったの?」 「う~、誰にって、神様だよ」  意味難解な言葉に、千恵は呆れた顔で見る。 「そんな神様なんて、いないわ。本当に嘘が下手ね。ふふ・・」  俺も、自分の言い訳に呆れていた。 「うん、俺は下手くそだ」 「でしょう? 金ちゃんは... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅢ 

     俺の両腕が勝手に動いた。 「どうして・・なの?」  千恵を俺の胸から引き離し、彼女の瞳を見詰める。 「うん、君に恋する資格が、俺には無いんだ」 「嘘よ、絶対に嘘よ。佐藤さんとは付き合ったじゃない」  再び、俺の胸の中に飛び込みしがみつく。 「あれは、恋じゃない。それは佐藤さんも承知だ。気紛れの交... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅡ 

     ファミレスから五分程度だ。工場の門を開け、車を入れる。 「へ~、ここなの? 印刷会社なのね」 「さあ、降りて。事務所を開けるからね」  事務所を開け、電気を点ける。千恵は珍しそうに中を見渡す。 「金ちゃんは、どこで寝ているの?」  事務所の奥を覗く。 「ああ、その横の部屋だよ」  千恵が俺の部屋... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅤⅩⅠ 

     泊まるより、一緒に弥彦へ行った方がいいと思った。 「分かった、アニキに頼んで車を借りるよ」  携帯で兄貴に電話した。会社の車は、お盆中だから使用しないという。 「千恵ちゃん、弥彦まで車で送るよ」 「え~、本当に?」 「ああ、本当だよ」  千恵が喜ぶ。内心、俺も喜んでいた。 「じゃ、近くのファミレ... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅤⅩ  

    「それで、何時の新幹線に乗るの?」 「・・・」  俺の質問に答えず、黙ったままカップを見詰めている。 「どうして、黙っているんだい。時間に乗り遅れたら、困るだろう・・」 「金ちゃんは、ひとりで住んでいるの?」 「いいや、アニキの工場に泊まっているよ。明日か、明後日に寮へ帰る予定だから」 「そうか、... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩⅨ 

     我を忘れ、駅に来てしまった。改札口で待つ間、自分の愚かさに悔んだ。予定の新幹線は、既に到着しているのに千恵の姿が見えない。俺は心配した。 「金ちゃん、私はここよ・・」  後ろを振り向くと、明るい笑顔で千恵が立っていた。ただ、周りを気遣う眼差しは、不安に怯えている。 「やあ、元気だった」  若い千... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩⅧ 

     俺は非情と思いつつも、先に別れ寮に戻る。しばらくして、坂本が帰って来たが、互いに話すことはなかった。  その後、一週間ほど実家の高崎へ帰る。街中を歩くと、必ずあの人の面影が甦ってしまう。憂鬱な日々に、早く寮へ戻りたいと考えた。  朝から予定も無く呆然としていた。十時過ぎ、突然に携帯が鳴り、見知ら... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅦ 

     いや、俺は違うと信じていた。どれほど多くの女性に、心が奪われただろうか。彼女らの心が読めず、失意のどん底を味わう日々を過ごした。 「まあ、いいや。惨めな情けないことを、思い出しても仕方ない」 「ふふ・・、あら、そんなに恋をしたの。幸せね」 「えっ、俺が幸せだって?」  俺の手を握り、恨めしい眼差... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅥ 

     佐藤は、一瞬言葉を選ぶために、沈黙する。俺は焦ることなく待った。 「ん~、千恵ちゃんを悲しませないで、彼女は、まだ18歳よ」  俺には、佐藤の気持ちが分かっていた。 「もちろんさ。あの旅行のとき、彼女の仕草や言葉で感じた。でも、ときめきを意識しても、心の奥に戒めていた」 「・・・」 「だから、新... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅤ 

    「私は、簡単にどうぞって、答えたわ」  千恵に驚いたが、佐藤の答えにも唖然とする。 「えっ、そんなこと、言ったのかい?」 「ええ、千恵ちゃんは拍子抜けし、憮然としていたわ」 「・・・」  俺は言葉を失う。 「だって、金ちゃんと私の仲は、恋人未満でしょう? だから、今なら平然としていられるもの」  ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅣ 

     バス旅行から、三日目の晩。佐藤から呼び出された。  約束の時間を過ぎても現れず、俺は引き返そうと思った。そこへ、慌てて走って来る佐藤の姿。 「今晩は~、ご、ご免なさい」 「体中を蚊に刺され、痒くて我慢できないよ。もう、帰ろうかと思った」  俺の不機嫌な様子に、身を小さく縮ませ謝る。 「出掛けよう... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅢ 

     助手席に座ったまま降りずにいた。フロントガラス越しに前方の景色を見ていると、千恵がバスの前を通り過ぎる。パッと振り返り、俺を見た。鼻の先を右手の人差し指で、三回ほどチョンチョンと下から上へ弾く。新鮮で可愛い仕草だ。 「何しているの? 早く降りなさいよ」  聞こえないが、そのように口が話し掛けてい... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅡ 

     帰りのバスは、騒々しいくらい賑やかだった。運転する海田と俺だけが、静かな存在である。窓から入る爽やかな風に、俺の心は和む。  この風は、あの人を思い出させる。なにもかも、幸せに感じていた日々。それが、ある言葉のトリガー・フレーズに悩まされ、いつのまにか虜になった。 「海田さん、・・・」 「ん? ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅣⅩⅠ 

     その後、海田に誘われ昼食を一緒にする。食事の間、千恵のことが気にり、海田の話に集中できない。 「なんだか、食が余り進まないようだね」 「いや~、そうでもないです」  そう言いながらも、オムライスをスプーンで穿るだけ。時たま、口に運ぶ。 「もうすぐ、帰る時間だよ」 「ええ、・・・」  半分も食べ終... 続きをみる

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  •    偽りの恋 ⅣⅩ 

     一時間ほど海岸で戯れた後、適当なレストランを探した。ちょっと小高い丘に、洒落たレストランを見つける。 「じゃあ、それぞれが適当に食べてくれ。いいね・・」  木村が伝えると、テラスのテーブルへ移動する。直ぐに食券を買いに行くグループもいれば、近くの土産店へ覗きに行くグループもいる。  俺は海岸が一... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅨ 

    「随分、簡単に諦めたね」 「反対されるのは分かっていたので、相手のご両親に直接結婚を申し込んだ」 「えっ、大胆なことをやったね。それじゃ、彼女が可哀そうと思わなかったのか?」 「う~ん。もちろん、卑怯なことだと思っています」  思い出すと、心が煮えたぎるほど辛い。最愛の人に、意味の無い過酷な仕打ち... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅧ 

     佐藤の顔が、思い浮かぶ。嫉妬に狂った目付きで、俺を睨む。 「間もなく、ヨット・ハーバーを過ぎたら、海岸に着くよ」  急きょ予定を変更したので、事前調査ができなかった。海岸は岩だらけだ。 「なんや、めちゃアカン。泳げへん、どないするねん?」  坂本が、声を尖らし不満を言う。 「坂本君の魂胆が見え見... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅦ 

     突然に渡されたので、慌て狼狽える。 「えっ、俺に?」 「うふふ・・、そうよ。だって、独りで可哀そうだから・・」 「そうか、慰めのチョコなんだ」 「いいえ、告白のチョコよ。ねぇ~、秋ちゃん」  首を傾げ、誘惑する仕草を見せる。俺の心臓が飛び跳ねた。 「ワォ、本当に、信じられない?」 「ふふ・・、ハ... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅥ 

     仕方なく、俺は助手席に座った。運転する海田が笑う。 「相手のいない俺が愉快ですか?」 「あはは・・、まあ、そうだな。俺なんか、最初から予定していないよ」 「海田さんは、許婚がいるらしいじゃないですか・・」  俺は、運転する海田と話す。 「ああ、そうだよ。でも、結婚するか分からん」 「え~、どうし... 続きをみる

  •    偽りの恋 ⅢⅩⅤ 

    「抽選番号は?」  彼女は折ってある紙片を、広げた。なんと、偶然にも俺と同じだった。内心喜んだが、佐藤から釘を刺されていた。 「心変わりしたら、許さないわよ・・」  その言葉が思い出され、背筋に寒さを感じた。 「金ちゃんは?」 「いや、今は喋っちゃダメなんだ」  俺は誤魔化した。彼女は、恨めしそう... 続きをみる