偽りの恋 ⅥⅩⅤ
高崎に戻り、車を返した。俺はシャワーを浴びて着替える。
「千恵ちゃんもシャワーを浴びなよ。俺は事務所にいるからね」
「うん、分かった・・」
千恵は不満のようだけど、仕方なく浴びる。待つこと半時ほどで、千恵が事務所に現れた。ミニのノー・スリーブのワンピース姿だ。浅黄色の服装に、同色の清楚なネックレス。突然の大人びた印象に、俺は呆気にとられる。
「うふふ・・、金ちゃんが、私に見惚れるなんて素敵ね。嬉しい・・」
「恥ずかしいこと、言うなよ。ドライヤーで、しっかり髪を乾かしたかい?」
「ううん、探しても見つからなかった」
棚の奥に仕舞い込んだので、探せなかったようだ。
「はい、ここにあるよ」
「金ちゃんが乾かしてよ。いいでしょう?」
こだわる必要もなく俺は承諾する。彼女の髪を指で梳くい、ドライヤーの風を柔らかく当てた。リンスの香りが広がる。
「わぁ~、気持ちがいいわ。金ちゃんって、上手ね・・」
千恵はうっとりと心を奪われる様子。俺の脳は難しい計算式を考える。
「金ちゃん・・、金ちゃん・・、もう、熱いから止めてよ」
肘で俺の胸を小突く。
「あっ、悪い悪いごめん・・」
口を窄め、機嫌を損ねる。俺は謝りながら、髪を優しく撫でた。
「もう、平気よ。でも、金ちゃんが髪を触ると、ゾクゾクするね。ふふ・・」
これ以上はやぶ蛇になる。俺は話を切り上げ、事務所へ行く。
「金ちゃんのバカ・・、直ぐ逃げるんだから、大嫌いよ!」
千恵の不機嫌な声が、後ろから追いかけてくる。俺は心の中で笑った。
「わっ!」
振り返りざまに、驚かす。千恵は一瞬立ち止まり、目を見開き震えあがった。
「・・・」
俺は後悔した。体を強張らせ、その場に立ち尽くす千恵。
「ごめん、急に驚かせて悪かった・・」
千恵の体を抱きしめる。だが、彼女は体をひねり曲げ、頑なに俺の腕を避けた。