ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

2018年8月のブログ記事

  •    湖畔  (大河内晋介シリーズ第五弾)Ⅰ 

     今年の夏は、台風、地震、大洪水、火山の噴火など、自然の変事が猛威を振るう。特に、厳しい酷暑が、日本国内の記録を更新している。  東都大学の研究室内も、エアコンがフル回転。 「教授、この暑さに耐えきれないですよ」  邪鬼対策に窓も無く、密閉状態の室内だ。二年の渡瀬が、不満を言う。 「慣れるしかない... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅨ 

     瞬く間もなく光が消え、静かな洞窟観音に戻った。私たちは、全ての観音像を拝顔し、表に出る。受付けで、ご朱印札を多めに購入し、駐車場の車へ引き上げた。 「皆さん、お疲れ様でした。事が楽に済み、無事で良かった。今日のことは、他言無用です。お願いしますね」  自販機で買った飲み物を配り、飲みながら私が挨... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅧ 

     千代と御堂が別れの挨拶をした。 「若月さん、これであなたも平穏に暮らせるでしょう」 「はい、ありがとうございます」  若月は丁寧に礼を言った。 「それで、この若者たちの記憶を消しますが、宜しいですね?」  御堂が、私と福沢に念を押す。 「その件ですが、今後の活動を継続させるために、許される範囲で... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅦ 

     守護や防人たちが洞窟観音を出ると、邪鬼たちが林の方へ逃げ始めた。駐車場の周囲が戦場となる。罵声と呻き声が錯綜。半時ほどで、邪鬼の屍が山積みになった。 「こちらへ・・」  徳明園の門まで許され、私たちは駐車場の周辺を見渡す。その光景は、目を覆うほどの荒ぶ世界であった。 「今から、あの屍を始末します... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅥ 

     二人の美しさに、助手たちが危険な現状を忘れ、見惚れてしまった。 「あらあら、しっかりしてちょうだい。危険が迫っているわ」  御堂が、たしなめる。 「そうだよ、これからが本番だ。気を引き締めていかないと・・」  若月も声を掛ける。 「それで、この後は何をすれば良いのですか?」  私が、千代に尋ねた... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅤ 

     数え切れない邪鬼の大群。権助に新たな力が備わったようだ。私は恐れ、今回の戦いで権助を完全に潰さねばと思った。  庭園の池を過ぎる。ようやく、洞窟の入り口に辿り着いた。 「大河内さん、権助は内臓に目もくれず、真っ直ぐに向かってきましたよ」 「ええ、私も見ました。彼の執念を、改めて確認しましたね」 ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅣ

     邪鬼の姿が見える私と若月が、揺れる木々の周辺を凝視する。 「やはり、隠れているな。ただ、権助の姿が無い」 「いえ、あの大木の後ろにいますよ。主任・・」 「そうか、指で示すなよ。ヤツは、こっちが気付いていないと思っているようだ」  残念なことに、渡瀬と明菜が若月の言葉を聞いて、大木の方を眺め助手た... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅢ 

     関越高速道の高崎インターを下り、市内へ向かう。環状線から、国道17号の烏川沿いを走る。聖石橋を渡り、目の前の観音山を目指した。 「さあ、直ぐ近くだ。心構えはいいかな」  福沢が、助手たちに告げた。彼らは前方に目を向け、ただ頷く。車内が緊張感に包まれる。 「そ、そんなにぃ、固くなったら~、素早く、... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅡ 

     その時、若月の携帯が鳴った。 「あ、夏帆さん。うん、家には行かないで欲しい。ちょっと待ってね」  様子を聞いていた私に代わる。 「大河内だけど、若月の話は本当だ。君に危険が及ぶ、だから絶対に近寄らないで・・」  彼女は半信半疑だが、ようやく納得してくれた。その後、若月はブツブツと話し続ける。 「... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅠ 

     私と福沢が、非常に危険な戦いとなるので、参加を止めるよう助手たちに説明した。 「いいえ、僕たちも行きます。先生のお役に立ち、僕たちの経験にもなる」  リーダーの畠山が、代表で答える。他のメンバーも頷く。 「でも、女の子は危ない。ヤツらは、弱い人間から襲う」 「あら、私が弱い人間と思っているの? ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩ 

     案の定、権助は血眼になって、私たちを探していた。御堂の行方も気にしている。御堂が雑木林で姿を消したことも、仲間から情報を得た。数匹の邪鬼を雑木林へ行かせ、状況を窺っている。  翌日の朝、私と若月は会社に連絡して、有休を得る。電話には、若月と交際を始めた女子事務員が応対。彼が言葉巧みに、彼女に伝え... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅨ 

     御堂は雑木林に逃げ込み、道祖神の穴へ入ることができた。 「さて、これからどうするか。私の家は無理だ。恐らく、ヤツらに囲まれているはずだ」 「これから、タクシーで大学へ行きましょう」  私は、福沢の提案を直感で受け入れる。大学の研究室は、邪鬼の嫌う工夫をしていたからだ。 「先生、研究室はあのままで... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅧ 

     私が若月を庇うように、ファミレスを出る。やはり、私たちを見張っていた邪鬼が、ゴソゴソと動き出した。 「相当数の邪鬼が、暗闇で動いている。若月、注意しろ!」  私が、若月に小声で耳打ちする。 「はい、主任」  私たちは雑木林の反対方向へ歩く。明るい商店街の中を、ゆっくり歩いた。その隙に、御堂が雑木... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ 

     ただ、私は気になった。高崎の洞窟観音へ行かねば、会えなかったはずの千代さんに会え、この御堂が私たちの前に現れた。 「御堂さん、千代さんにしてもあなたにしても、どこから来られたのですか?」 「ああ、そのことね。前回の雑木林にある冥府の境界線よ」 「えっ、あそこは封鎖されたはず・・」  御堂が、小声... 続きをみる

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  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅥ 

    「大河内さん、あなたは典侍に会われたでしょう? あの方がとても心配して、私をこの世に送り出したの」 「はい、昨晩話すことができました。でも、御堂さんのことは、何も触れませんでした」 「ええ、分かっています。あなたの家の近くに、邪鬼の群れが集まり、情報を手に入れようと必死だったの。だから、敢えて私の... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅤ 

     考え倦んだ末、結局駅前のコンビニする。私と若月は、周りに気を配った。特に車内の人の動きを確認し、一駅ごとに車両を変更。  約束の駅前には、福沢が先に来て待っていた。 「早かったですね・・」 「ええ、その女性に興味が湧き、急いで来てしまいました」  福沢は照れながら、早口で答える。 「主任、間違い... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ 

     昼時間に、若月が迎えに来た。一緒に食事するが、今夜の約束を話すべきか私は迷う。 「主任、箸が動かないですが、お腹が空いていないんですか?」 「ん? いや、考え事をしていたんだ」 「何をですか? 私に話せば、楽になりますよ」  若月らしいと思った。私は決心する。 「実はな、今朝のことだが・・」  ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅢ 

    「もし、差し障りが無ければ、事情を教えて?」  物腰の柔らかな女性だ。年齢がほぼ私と同じくらい。妙に私を魅するので、心がときめいた。 「あ~、う~、・・」  私は戸惑い、言葉が思いつかない。 「これから、お仕事でしょう? 後で電話を頂けますか・・」  小物入れから名刺を出し、私に寄越した。私も名刺... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ

     私は忘れないように、教えられた番号をメモする。 《しかし、驚いたなぁ。千代さんが現れるなんて・・》  朝までまどろみ、すっきりしないで起床した。熱いシャワーを浴び、眠気覚ましの強いコーヒーを飲んだ。朝食を済ませると、急ぎ駅に向かう。 「なんだろう?」  歩く私に、後ろから強い視線を感じる。振り向... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅥ 

     食後、それぞれの課題を持って別れた。別れ際に、挑発だけは受けるなと、若月に忠告をする。家に帰ってからも、心配した。シャワーを浴びてから、電話を掛ける。 「はい、若月ですが・・」 「ああ、私だけど。問題無いか?」 「特に、今のところは何もありません」  しばらくして、福沢から電話を受ける。 「やは... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅤ 

    「ええ、主任。私も、おやっと思いました」  注文した料理が来る前に、飲み物で乾杯。若月が、気持ち良さそうにビールを飲む。福沢は赤ワインを、味わいながら飲んだ。私は相変わらずコカ・コーラで済ませる。 「ところで、高崎の洞窟観音は、いかがでしたか?」  福沢が、カバンからパンフレットを取り出す。 「こ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ

    「確かにそうですね。ヤツらの姿が見えれば、襲われても逃げられる。また、反撃できますからね」  若月は、若いし気力もある。しかし、邪鬼の本当の怖さを知らない。私は不安を覚え、彼の向う見ずな行動を注意するつもりでいた。  私たちは、気付いていない素振りを続けた。ヤツは面白がっている。 「若月、ドアが閉... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅢ 

     その夜は、何も起こらず朝を迎えた。車に乗らず、電車で出勤する。 「主任、今日の夜は、どうしますか?」 「そうだな、福沢先生から報告が来るかもしれん。後で、連絡する」  午前中は、互いの仕事に集中する。昼食も別だった。 「大河内さん、電話です」  退社時間の間際に、女子事務員から呼ばれ電話に出る。... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅡ

    「オ、オ~ッ!」  慌てる若月。ハンドルをしっかり握る。 「ガガッ、ウフフ・・、ガァー、フフフ・・」  スピーカーから雑音と共に、薄ら寒い笑いが響く。顔を青ざめる若月に、私が肩を軽く叩き落ち着かせる。 「オイ、そこの、若いの~。必ず~、お前を~、食い殺すからな~」  地獄の底から、あの権助が話し掛... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅠ

     帰りが遅くなった若月。心細い態度で、帰り支度を始める。 「おい、若月よ。今晩、泊まれ・・」 「いいえ、着替えを持って来ていないので・・」  私は、しばらく考えた末、結論を出す。 「じゃ、私が行くよ。泊まる部屋は有るのか?」 「ん~、ソファなら・・」  明日の着替えを用意し、彼の車で千葉へ向かった... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅹ

     その資料は、江戸の中期に書かれたようだ。筆文字なので、結構時間を要した。 「この部分が、気になりますね」  私が、指で示す。福沢も首を傾げる。 「確かに・・」 「え、なんですか?」  若月が、覗き込む。 「洞窟でしょう。その洞窟に、仏像が安置されている場所ですかね?」 「そんな場所が、この近くに... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅸ 

     昼時間になっていたので、近くのラーメン店に餃子セットを三人分頼んだ。都合よく、福沢准教授が到着した。 「先生、昼は?」 「いや、まだ食べていません」  先に頼んだことを伝えると、福沢が満面の笑顔。若月を紹介し、お茶を用意してると出前の餃子セットが届いた。 「さあ、食べながら考えましょうか・・」 ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅷ

     彼の姿に、助ける手段を講じるべきだと思案する。 「君は、香木の匂い袋を持っているのか?」 「いいえ、もう関係ないと思い、持っていません」  私が思わずため息を吐いたので、若月は察したらしい。 「持っていた方が、良かったのですか?」 「ああ、取り敢えず用心のために、常に持ち歩くべきだ」  彼はブツ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅶ

    「でも、後で不味いと思い、直ぐに引き返したけど・・」  若月は浮かない顔をする。 「それで、どうしたんだ」 「ええ、女の子の姿は消えていた。ただ、座席がそのまま濡れていました」  妙にうさん臭い感じがする。 「何か、他に感じたことは無いか?」  彼は困惑しているようだ。 「ん~、どうなんだろう。よ... 続きをみる

  •  微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅵ

     日曜日の朝、早くに目覚め、落ち着かない。今度は、どんな問題が待ち受けているのか、それに誰と出会うのか楽しみだった。  ただ、以前の出会いは、美しい女性だった。ところが、あのラジオから聞こえたのは、子供の声である。そのことが、特に私の興味をそそった。  若月を待つ間、心をときめかせ頭をフル回転させ... 続きをみる